さる君







     ちーへ

     ちーは覚えてないかもしれないけど
     俺の部屋に来た時
       「ここは、ちーの部屋」
     って、言ってたね

     そして、俺がいつも座ってるトコに
       「ここはさるくんの席」
     って、さるくんが座ってた


     おもちゃ売場で、足にしがみついてきたのって
     ちーはさるくんのこと教えてくれた


     いつも、さるくんとちーと俺の三人でコタツにいると
     ちっちゃい家族みたいだったね

     みんなで固まってることが
     ちっとも不思議じゃなくて
     固まってることが心地よかった


     みんなでずっと一緒だねって言ってたね
     これから先は
     他の人が過ごしている所じゃなくて
     今はまだ、さるくんしか知らない所
     ちーと俺は知らない所へ
     いつかいける気がした

     そこで、ちーとさるくんと俺で
     生きていける気がした

     みんなが知らない国があって
     みんなが知らない島があって

     みんなが知らない
     ちーとさるくんと俺の家が
     これから先、きっとあるんだって思ってた



     なのに
     今はこの部屋から
     少しずつ薄れていく、ちーの気配
     毎日、どんどん遠くなっていく
     ちーとさるくんと俺の行こうとした国

     どんな所だと思っていたのか
     そんなことも、いつかわからなくなってしまうんだろうか



     ちーとは、どこかへ出かけることもなく
     いつも部屋で遊んでいたね

     それはもしかしたら
     他の人たちの暮らしている姿
     他の人たちが手にしているお金
     他の人たちのしている仕事

     そんなのを見るのが
     自分たちと比べるのが
     怖かったのかもしれないね



     お正月に、さるくんにあげたお年玉
     ちーは言ってたね

     「さるくん、お年玉持って
     朝出かけて行ったけど、夕方帰ってきてた。
     おうちは買えなかったって」


     ちーとさるくんと俺では
     きっと、現実では生きていけなかったんだね



     でも、ちーは現実で生きてみようと思ったのかもしれない



     さるくんはちーがいないと
     まだ一人では動けなかったけど

     俺はもしかしたら今日にも
     さるくんだけでも遊びに来そうな気がするんだ



     三人のおうちは買えなかったけど









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