桜に








     桜が咲いていた
     咲くから、おいでなんて
     誰もいってくれなかった

     見たくてたまらないのに
     桜の木の下でずっと眺めていたいのに
     俺は夕暮れまで
     ひとりで1Kの部屋にいた
     もう終わってしまう時間まで
     どうすることも出来なかった

     ずいぶん前、いわれたことがある
     「おまえ、孤独に強いなァ」
     そう、ずいぶん前


     誰もがそうなように
     最初からひとりだったんじゃない
     誰もがそうなように
     最初からひとりが好きだったんじゃない

     ひとりになってしまったら
     ひとりを好きになるしかないじゃないか
     そうじゃないと今まで
     生きてこれなかった


     ひとりになってしまった、いつかの日から
     俺は人に好かれる力を失ってしまった

     その日は諦めてしまうほど遠い日なのに
     俺には今日もまだ
     人を好きになる力が残っている

     そんなものなくなってもいいのに


     人に好かれる力のない奴が
     人を好きになる力を持っていたって
     何か始まるわけじゃない

     街の鏡で自分の姿を見つめて立ちすくし
     今日まで生きてきたことを後悔し
     横を通り過ぎた奴のように
     生まれなかったのは何故かと考える
     人を好きになる力があったって
     生きる力が
      弱まってしまうだけなのに



    みんなの笑い声とともに
    明日も桜は咲いているんだろう

    どの人にも愛されて
    明日も桜は咲いているんだろう

    俺という人間がいることを忘れて咲いているんだろう



     俺はもう桜に近づくことさえ出来ず
     もう桜の木の下に立てる日は
        やって来ないだろう









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