なっちゃん







     なっちゃん
     なっちゃんは猫が好きなんだって
     俺はいつからか知らないけど
     猫が好きなんだって


     そう、今ここで生きている猫も
     もう死んでしまった猫も


     なっちゃんは俺に訊いたね
     さっきまで生きてた猫と
     今、死んだ猫とどこが違うのって
     不思議そうにしっかりした声で訊いたね

     俺ね、小さい頃
     朝の強い陽の中で
     自転車で轢かれて死んでいた猫を見たよ
     細く汚れたタイヤの跡が残っていて
     蠅がたかっていた
     気持ち悪くてかわいいとは思えなかった


     なっちゃん
     でも、なっちゃんは
     道路のアスファルトで猫が死んでいたら
     土まで運んであげるっていったね



     なっちゃん
     俺ね、この前も住んでるところの下で
     猫を見たの
     夏はよく道路で寝っ転がったり
     セミをつついて遊んでいた奴かもしれない

     その日ね、今日は変な格好で寝っ転がってるって思ったら
     顔がとても苦し気で、目を閉じてた
     下唇をかむような顔で死んでたんだよ
     自分の足元を見たら、ぶちまけられた赤があった

     俺はとても手を出せなかった
     轢いた人が運んだのか
     ゴミ置き場の近くのダンボ−ルの上に置かれていた



     もういなくなってしまった猫が
     最後に作った表情はとても苦し気で
     嘘だったんだって言っている気がした

     友達だとか仲間だとか
     可愛いとか可哀相だとか
     気まぐれでパンを投げたり、笑いかけたり
     おまえらは
      嘘ばっかりだったって



     まるで信じてたことが苦し気のようだった



     なっちゃん

     なっちゃんは手を出して
     陽の沈んだ帰り道
     死んだ猫を運ぶ



     なっちゃん
     なっちゃんは忘れそうな頃
     俺の前に現れるね
     お菓子を焼いてくれたり
     誰も一緒にあるいてくれなかった道を
     ずっとずっと一緒に歩いてくれたりするね

     猫の話を聞いてね
     思ったことがあるの

     なっちゃん
     なっちゃんに俺、
     死んだ猫に見えてないよね

     見えてないよね?


     俺はまだここにいなくちゃいけなくて
     なっちゃんが帰るとき振る手を見つめられる

     なっちゃん
     だからね・・・置かれたままにされたくないって
     どうしても思ってしまう
     また来てくれるって待ってしまう


    俺は死んだ猫じゃないから


    ごめんネ








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