冬の終わりに







     陽が暮れてから、雨は上がったよ
     もう雪は降らない
     窓、閉めな


     あのさ、言ってなかったんだけど
     寄り添ってくれる子が出来たんだ

     ホントだよ


     部屋に帰って、手を洗ってたら
     背中にくっついてきたり
     帰るときにドアの前で
     5分でも10分でも抱き合っていたり

     信じないかもしんないけど
     そんな子が今、いるんだよ


     おまえには何度も言ってきたけどさ
     俺は日々、生きる目的も特になくて
     明日消えても、今日消えても
     大した違いはないって思ってきたよ

     生きていけば何かあるとか
     愛してくれる人がいつか現れるとかは
     そうなった奴が言うことか
     話しを片づけたいから、つくだと
     頑なに信じていた

     この先、生きていっても
     いいことなんかあるとは思えなかった
     今より悪くなる前に死にたい
     惨めな生活になる前に死にたい
     トシ取って、体が弱る前に死にたい

     そんなことしか考えなかった

     こんな人間になったのも自分のせいって知ってたから
     動き出す気力も失いかけていた
     出来ないこと、怖いことからは
     全部逃げることで片づけてきたから


     教科書にマジックで描かれた落書き
     背中を引き裂かれた学生服
     両手いっぱいのパンとジュース

     やめろと言わなかったのは何故か
     投げつけなかったのは何故か
     職員室で全てをぶちまけなかったのは何故か

     俺はそこからいなくなることで、全てを片づけた
     それは社会に出てからも同じだった
     転職、転職、転職

     やめればいい
     いなくなればいいんだろ
     最期はこの世から
   いなくなればいいんだろって

     いつのまにか
     俺の前にはわずかな灯りもない気がした


     いや、聞いてよ
     それがよかったって言うんじゃないんだ
     そんなこと正当化したりもしないんだ
     ただ、こんな生き方じゃなかったら
     やっぱり、会えなかったことは間違いないんだ
     もし、もし会えたとしても
     ホンの一瞬すれ違っただけだとと思うんだ


     でもさ

     俺は生まれ変わったわけじゃない
     この先、何もかもうまくいきそうな未来でもない
     二人で幸せに暮らせる
     保障もお金も仕事もあるわけじゃない

     頑張って生きていこうと
     言う気になったわけでもない




     でもさ

     生きていけば何かあるって
     生きていけば愛してくれる人が
     いつか現れるもんだって



    とりあえず今は

    おまえにそう話せただけで

    俺、死んでなくて良かったなって思うんだ










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