好きという気持ちで強くなる











【北斗に無理強いしたら許さない】
 朝一番から届いたメールの意味がわからず、冬樹は首を傾げた。
 彼からのメールははじめて。その内容がこれでは、頭の中は疑問符だらけになる。
【なんだー?】
 すぐに問い返したが、答えは返ってこなかった。
 メールにあるように、というか彼からのメールならそのこと以外にはないだろうが、北斗に関することだけはわかったので、冬樹は教室で北斗が来るのを待つことにした。
 多分幹は学校の前で北斗と別れてすぐにメールを送ったのだろうと予測したが、その通りというタイミングで、北斗が教室に入ってくる。
「おはよう、北斗」
「おはよう、……あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 そうそう、それを待っていたんだと、冬樹はわかっていながら何だ?と話しやすくしてやる。
「白団で遊びに出かける予定があるって知ってる?」
 これのどこが無理強いなんだミキちゃんよー、と思いながら冬樹はうんと頷いた。
「それの幹事に任命された二人が、翌年の総団長と応援団長になるっていうのは?」
「あぁ、まずそうなるな。三年生で話し合って人選して、幹事の手際を見て、最終的に決定するらしいよ」
 冬樹の説明に北斗は暗い表情で俯いてしまう。
「何? 幹事になれって言われた?」
 まさかと思いながら、冬樹が念のために聞くと、北斗は思いつめたように頷いた。
「冬樹と二人でって……」
「俺ーーーーー? まさか、俺が推薦されるわけがないよ。え? そんなこと、本当に言われたのか?」
「都築先輩に言われなかった? 源先輩はそう言ってたんだけど……」
「ないない。その話、源先輩のフライングじゃないかなー」
「フライング?」
 聞いているうちに腹が立ってきたのかのように、冬樹は携帯電話を取り出した。メモリーを検索して都築に電話をかけた。
「あ、先輩、俺、幹事なんて引き受けませんから」
 相手が出るなりきっぱりと告げる。
「北斗も嫌だって言ってますから、源先輩にもきっちり言っといてくださいね」
 電話の向こうでは何かを言いかけたようだったが、冬樹は一言も聞かずに電話を切った。
「大丈夫、北斗。断ったから」
 北斗はとても驚いているようで、物を言うのも忘れてしまったようだ。
 冬樹は楽しそうに笑いながら、続けてメールを打つ。
【二人とも断ったから。これでミキちゃんに貸し一つな】
 そんなメールのやり取りがあったことなど、北斗には内緒にして、携帯をポケットに入れる。
「本当にしなくていいの?」
 北斗はまだ心配な様子で、冬樹を見つめる。
「いいよ。嫌がってる奴にやらせられるほど簡単なもんじゃないよ。それにあれって、本当は半分立候補みたいなもんなんだよ。やりたい奴の中から、前任者が選ぶんだから、俺たちは立候補もしてないだろ? それとも北斗、やりたいの?」
 とんでもないとばかりに、北斗は勢いよく首を横に振る。
「でも、冬樹はやりたいんじゃないの? 僕がやりたくないって言ったから……」
 あまりの心配性に冬樹は軽やかに笑う。
「俺は絶対にやりたくない。そんなタイプじゃないだろ?」
 うんと返事をすると本人の人柄を否定するようにも受け取られそうだし、否定すると本人が嫌がっているのに推薦しているように思われそうだし、北斗は返事に困ってしまう。
 そんな北斗の葛藤などお見通しのように、冬樹はますます楽しそうに笑う。
「まぁさ、遊びに出かけるのは本当だからさ、それは楽しもうよ、な」
「う、うん」
 北斗はそれも迷ったように頷いた時、授業開始のチャイムが鳴る。同時に冬樹の携帯にメールの着信があった。
【そんなの貸しじゃねーよ!】
 相変わらず気のきついことだなと、冬樹は小さく笑った。

 放課後、帰宅するために階段を下りていると、1階の通路に源が立っていた。
 回れ右をするわけにもいかず、北斗はそのまま下足室へと向かう。
「北斗、ちょっといいか?」
 おいでというように手招きされて、源は歩き始める。
 いつもなら冬樹と一緒に校門まで行くのに、今日は遅れていた提出物を出しに行ったので、北斗は一人で帰ろうとしていた。
 冬樹について行っても良かったのだが、「ミキちゃんが待ってるだろ?」と言われたので、つい頷いてしまったのだ。
 今朝の事ですっかり源を苦手だと認識してしまった北斗は、呼ばれるままについていくことに抵抗を感じた。
「あの……」
 冬樹に言われるまでもなく、幹が待っていることが気になる。
「すぐに済むから」
 校舎を出たところで源は立ち止まったので、仕方なく北斗も通路を渡る。
「あの、幹事のことでしたら、やっぱり困ります」
「北斗と冬樹が引き受けてくれたらいいなと思ったんだけれどな。団長なんて言っても、そんなに大変なことなんてないんだぞ」
 軽く言われるが、二人の大変さを期間中ずっと見ていただけに、それを素直に信じることはできない。
「それは諦めるよ。無理に引き受けてもらうことはやっぱりできないし」
「はい……」
 だったらなんだろう……。北斗は落ち着かない気持ちで話の続きを待った。
「白団で遊びに行くとは別にしてさ、一度一緒にどこかへ出かけないか? 映画でもいいし、遊園地とかでもいいし、北斗が行きたいところでいいよ」
「え……?」
「それもダメか?」
 一度何かを断ったあとに、別の件までも断るのには、それなりに根性が必要だ。
「別に堅苦しく考えないでいいよ。先輩後輩ということも抜きにして、友人として出かけるのに、変なことなんてないだろ? それとも俺と出かけるのはそんなに嫌か?」
「嫌って言うわけじゃ……」
「だったら決まりな。期末テストが終わったらにしよう。細かい打ち合わせはまた今度な。どこに行きたいか考えておいてくれよ」
「えっ……でも」
 決まりと言われても困る……と北斗が言おうとしたら、源は爽やかな笑みで手を振り、校舎へと引き返していった。
「どうしよう……」
 どうすればいいのかわからないまま、北斗は困ってしまって、しばらく動けずにいた。