その拾八 雪を詠む歌 |
巻第十 2318 詠み人知らず
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現在語訳 夜が寒かったので、翌朝、戸を開き、出てみると、庭にうっすら雪が降っている。 解説 現代語訳が必要のないほどシンプルな歌である。約千三百年前の飛鳥〜奈良時代に詠まれたとは思えないほどである。時期は初雪が降った頃だろう。 写実主義なる概念がない時代にうたわれたとは思えない。時々、現代人がはっとするようなシンプルな歌がある所が万葉の魅力であり、現代に通じる日本語の美しさ、日本人の感性の鋭さを知らせてくれる歌である。 現代は、食べ物や栽培されている花の旬がなくなり、夏でも屋内スキー場が出来ている。季節感がなくなりつつある時代だが、春が来れば桜が咲き、冬が来れば雪が降る。日本人は昔から、季節を大事にして来た民族だ。時代や服装、食べる物は変わっても、冬がくればうっすらと雪化粧した庭の風景に心動かされる感性は失いたくないものである。 「はだら」=透けるほど薄く。転じて「うっすら」 |