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軍事を持たない誇り   コスタリカの実験
  ・・・・・・・・・・静岡新聞地球未来 21世紀へ より転載・・・・・・・・・・・・・・・・・・

中米コスタリカの最北部、ニカラグアとの国境のタブリジャズ検問所
大人の胸辺りの高さに、頼りなげな有刺鉄線の国境が続く。
検問所の小屋と鉄条網、ゲート以外は、赤土の道路と草原しかない。
ニカラグア側では、国境警備の陸軍兵士が鉄条網に洗濯物を干している。
日差しが刺すように暑い。
ニカラグア内戦が激しかった1980年代には、同国の戦闘はコスタリカ側にはみだして展開された。
内戦が終わった現在も、国境沿い河川の警備権限をめぐるトラブルや、
ニカラグアからの大量出稼ぎ者による不法越境問題を抱える「摩擦の最前線」である。

戦車よりも学校
「コスタリカに軍があったら(ニカラグアとの)戦争になっていただろうね」
検問所を管轄地に持つ国境警察ロスチレス司令部のエスピノサ司令官(36)は、
口ひげの目立つ顔に薄笑いを浮かべて話した。
「コスタリカには軍がない。だから話し合いで解決するんだ。軍なんかないほうがいいよ」
コスタリカは1949年の憲法改正で常備軍を廃止した
以来半世紀、80年代に吹き荒れた中米諸国の内戦にも本格的に巻き込まれることなく、再軍備の動きはない。
浮いた軍事費を教育費などに回し、識字率95%は中米諸国では群を抜く。
司令官は司令部に戻る道すがら「戦車より学校」と言い切った。
コスタリカの首都サンホセの自宅で、エドガル・カルドナさん(83)は、製本された
一抱えもある大判の書類つづりを丸テーブルに置いた。
48−49年の閣議議事録コピー
老人は、手書きの文字がびっしりと並ぶページをめくり「閣議は48年11月2日、
9時間の討議の末、軍備を廃するとのエヂガル・カルドナ国防・公安相の提案を受け入れた」の部分を示し微笑んだ。
「軍備廃止」。すべてがこの閣議から始まった。
カルドナさんが閣僚として参加していたホセ・フィゲス政権は49年に軍備を廃止、歴史に名を刻んだ。
中米の紛争解決を主導し、ノーベル平和賞を受けたオスカル・アリアス元大統領(86−90年在職)は「最良の防御は無防備にある」と「コスタリカの実験を誇らしげに語った。
「軍備のない相手攻めれば、国際社会の反発という大きな犠牲を払いますからね」と、アリアス氏は言う。
草深い検問所で司令官から聞いた「もしコスタリカが攻められたら、米国や日本が守ってくれる」の言葉が重なってくる。
アリアス氏は、在任中から今に至るまで、軍備廃止を他の国々、特に貧しい発展途上国に広げようと、地球規模の行脚を続ける。
「人種間の争いや、国境紛争のない国ならできる。
(コスタリカと)同じような国は増える」と話す口調に迷いはない。

環境保護も進む
教育の普及、生活水準の高さは、環境を守る意識を高める結果となる。
99年、湿地保護のためのラムサール条約締約国会議を開催。
地球温暖化防止のために、政府系企業が二酸化炭素削減のための債権を発行し、得た収入で植林するという環境保護の先進国だ。
国土の23.5%が国立公園などの保護地域という数字にも驚かせる。
カリブ海岸パスクアレの亀の保護区では、猿の鳴き声の聞こえる砂浜で、英国の信託基金をスポンサーに持つ亀の研究・保護活動家ロドリゲス・メンデスさん(38)が、4人の沿岸警備員と、孵化した亀を海へ帰すタイミングを相談していた。メンデスさんは海岸の家に住み、沿岸警備員は延長6キロの海岸線を歩いて、卵泥棒に目を光らせる。
警察、国境警備、沿岸警備のすべてを合わせても5500人しかいない現場の治安担当者の貴重な4人が亀の為に配置されている。
「(軍の廃止で)教育に金を使えるのはよいことだけどね、環境や生物保護の方にも回して欲しいね・・・。政府は外国からの援助に頼りきっているよ」と、現場の不満を漏らしたメンデスさん。
波打ち際で地元の子供達に囲まれながら、沿岸警備隊員が亀の赤ちゃんを海に帰すのを見送った(共同)