牛は悪いが、3人とも何とかしようとしていた。

2004年5月28日マドリード、ラス・ベンタス(第1級)闘牛場の結果。

 曇りで時々晴れのマドリード、ラス・ベンタス闘牛場。牛、1頭目から4頭目までと6頭目、バルデフレスノ牧場。5頭目、フライレ・マサス牧場。闘牛士、エンリケ・ポンセ、セバスティアン・カステージャのコンフィルマシオン・デ・アルテルナティーバ、マティアス・テヘラ。ノー・アイ・ビジェテ。ソルのテンディド5アルトにてTさんとYさんと一緒に観戦す。

 セバスティアン・カステージャのコンフィルマシオン・デ・アルテルナティーバの為に、セバスティアン・カステージャが1頭目と、5頭目。エンリケ・ポンセが、2頭目と4頭目。マティアス・テヘラが、3頭目と6頭目。

 セバスティアン・カステージャのコンフィルマシオン・デ・アルテルナティーバ。始めの牛は代えた方が良いのか代えない方が良いのか判断が難しかった。出てきたときに白線を飛んだ。ベロニカを繋ぐと膝を着いた。口笛が吹かれる。ピカは左前に入ったが牛はまた膝を着いた。離れカポーテでまた膝を着いた。本来なら代えた方が良い。でも1つこの牛の特徴があった。それは頭を下げて素直にカポーテに向かって走っていた。この点がパセがしやすいのではないかと思った。前にいた男が、「代えた方が良いか?」と訊いてきたので、「解らない」と応えた。この男は、十何年前、オルテガ・カノのバンデリジェーロをやっていたイバニェスだった。そうあの素晴らしいバンデリジェーロだった男だ。

 テンディド7を中心に、「フェラ」コールが起きたがプレシデンテは牛を代えなかった。ファエナはアレナ中央から始まった。カステージャは右手に持ったムレタを後ろに持って牛を誘った。ブルラデロにいた牛は少しためらったが向かって走りだした。背中を通すパセ、体の前を通すパセ、「オーレ」がなる。それを2回繰り返し、背中を通しながらグラナディーナの様なパセを通してパセ・デ・ペチョをすると、「オーレ」と喝采が鳴った。距離を取り牛を呼ぶ。体の近くを通すパセを繋いだが、1回ムレタを角にはらわれた。2000年のサン・イシドロを思い出す。良い牛だったのに、テンプレが出来ずにムレタを角にはらわれてばかりいたノビジェーロだったカステージャを。

 パセ・デ・ペチョの後、距離を取ってデレチャソで牛を呼んでパセをリガールすると、「オーレ」がなったがコヒーダされた。角は刺さっていなかったがムレタを角に取られた。今度はナトゥラル。しかし、パセが短かった。パセの途中で止まったり危なかった。パセ・デ・ペチョの後、剣を代えた。アジュダード・ポル・バッホを膝を折って通しスエルテ・ナトゥラルでカイーダに入った。もう少しテンプレが出来ていれば耳が取れるファエナになっていただろう。5頭目は非道い牛だった。クルサードしてムレタをいくら振って動かない。牛の近くでそれを何度も繰り返して牛から何とかパセを引きだそうとしていたが無駄だった。観客は危険なので口笛を吹いて止めるように抗議した。それでもしばらく続けていた。闘争心皆無のマンソ。これほど非道い牛もいない。

 エンリケ・ポンセは、ポンセらしい技術を見せて観客を喜ばせた。フィグラに恥じない闘牛だった。2頭目の牛は出てきてブルラデロを突いた。ベロニカをすると飛んだ。メディア・ベロニカで脚がガクッとした。もう前脚を痛めていた。ピカは左前に入り離れるとアレナに角を突き1回転した。口笛が鳴る。こういう牛は代えた方が良いが代わらなかった。ファエナは、デレチャソで膝を折ったパセから始め牛の動きを確認した。右角がブスカンド気味で、左角で膝を着いた。アレナの中へ。デレチャソでクルサードして誘うが牛は体の方を観ている。怯まずパセを繋ぐがパセの時に牛は首を振っている。危険な牛だ。右手から左手にムレタを替えてパセを通してパセ・デ・ペチョ。拍手が沸く。

 離れての低い長いナトゥラル通したが直ぐにパセが短くなった。体の近くをゆっくり通す。危険だ。デレチャソを繋ぐ。ポンセは心得たもので手を低くすると牛がつぶれるので、手は中間の高さでパセを繋いだ。それが功を奏して牛は1回転半廻った。パセ・デ・ペチョで喝采が鳴った。誘う位置を変えて、デレチャソのトゥリンチェラからパセを繋ぎ、今度は牛を2回転廻して観客を驚かせた。「オーレ」がなり、パセ・デ・ペチョで喝采が鳴った。悪い牛でもこれだけの技術を見せるのは素晴らしい。それから動かなくなった牛にクルサードを繰り返しパセを丁寧に繋ぎトゥリンチェラ出牛は膝を着き剣を代えた。長いファエナだった。スエルテ・コントラリアでメディアで刺さった。アビソが鳴り牛が座った。喝采が鳴り、口笛が吹かれる中で観客に挨拶をした。

 5頭目の牛も悪かった。悪い牛でもそれなりに盛り上げるのがポンセ。しかし、ラス・ベンタス闘牛場の特にテンディド7にはそれがしゃくさわるのだ。いわゆる闘牛士の優等生だ。フィグラ中のフィグラも今日は観客に好かれなかった。でも、ポンセは本当にポンセらしかった。集中して牛をパセしていた。切れることもなかった。ポンセファンは立ち上がって拍手したりしていたがそれは一部だった。剣刺しの時にテンディド7の方から声などが上がって妨害している人がいた。ああいうのは闘牛士に対して失礼だ。だからピンチャソ2回。その後、ほぼ剣が決まった。牛が座ると闘牛場全体が喝采を送った。テンディド7などからは口笛が鳴る。途中で7と8が喧嘩を始めたり意見が分かれるファエナだった。

 マティアス・テヘラは、他の2人に比べて印象が薄い。確かに綺麗なパセを何度か通したが、牛の前でパセを通していただけの印象だった。今日の3人はどちらかというとパセの形が美しい闘牛士だちだ。こういう組み合わせは飽きてくる。牛も悪かったし・・・。3頭目の牛のテルシオ・デ・バラスが終わる頃、イバニェスとその横の男(顔に傷があるので彼もアレナで命を懸ける男なのだろう)が、「マンソ・イ・シン・ペリグロ」という会話をしていた。確かにその通りの牛だった。やはり、長年ソルテオに立ち会ったバンデリジェーロの目は侮れないと思った。

 今日は牛が悪かった。つまらない闘牛だった。が、ポンセは金太郎飴のようにどこを切ってもポンセだった。カステージャは少しは成長しているが、未だ牛を知らない。背が伸びてパセの美しさが少し減った。これからどういう闘牛士になっていくのか。

 一口に今日は最低だったと、いうのは簡単だ。何故牛を代えなかったのかと、怒ることもできる。僕は1頭目2頭目の牛を代えずに闘牛士がどんなファエナをするか観たかったので、それを観れたのが収穫だった。それとイバニェスと会えたのが良かった。


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