!Corazon Partido! 偉大なる復活!セサル・リンコンが奇跡のファエナでプエルタ・デ・プリンシパルから凱旋する。

2004年4月22日セビージャ(第1級)闘牛場の結果。

 晴れのセビージャ、レアル・マエストランサ闘牛場。牛、ハンディージャ牧場。闘牛士、セサル・リンコン、フィニート・デ・コルドバ、エル・フリ。観客はほぼ満員の入り。ソルのテンディド11のバレラの3列目で写真を撮りながら観戦す。

 今日は他のことは書かなくても良いくらいセサル・リンコンが物凄かった!だからそのことを書きたい。

 今日の4頭目の牛。セサル・リンコン。牛が出てきて左回りにアレナを2/3周した。セサルはブルラデロから出て両足を揃えて牛を待ちかまえる。両足を揃えたままベロニカする。牛がセサルの右側から来て通過していった。セサルはそのままの位置、そのままの姿勢で1歩も動かず立っている。牛は向きを変えてまた向かってきた。両足を揃えたままベロニカする。牛は通りすぎてから向きを変えて立ち止まった。セサルはそのままの姿勢で1歩も動かず牛を誘って両足を揃えたベロニカ繋いだ。闘牛場に、「オーレ」が響き渡った。パセの後、牛は走り抜けて止まった。その距離は15m。カポーテを持った右手をちょっとだけ動かすと牛は動き出した。ゆっくりしたベロニカに合わせて、「オーレ」がこだまする。それから2,3回そのままの位置、そのままの姿勢で牛を誘いベロニカを繋ぐと観客は「オーレ」の声は張り上げていった。それからゆっくりとしたメディア・ベロニカを繋いで、レマテのラルガをすると立ち上がって喝采を送る観客が大勢いた。

 もう観客はセサル・リンコンのベロニカに酔いしれて、闘牛場は興奮に包まれた。ピカは1番に所に2回入った。喝采が鳴る。牛が離れてから膝を着くと観客は口笛を吹いた。観客は牛の交換を要求したが僕はこの牛は代えない方が良いと思った。牛は交換せずにバンデリージャが打たれた。アドルフォが2回とも良いバンデリージャを打って喝采を浴びていた。

 牛は観客に捧げられた。テルシオを変えるトランペットがいつもよりも長く響いて喝采が鳴った。アレナの中央でモンテラを取って牛を捧げると喝采が鳴った。それからゆっくりとブルラデロまで戻って2mほど離れたところに立った。牛は次のブルラデロの所にいた。バンデリジェーロが牛の気を引くのをやめるとセサルは両足を揃えてアジェダード・ポル・アルトで牛を誘った。セサルと牛との距離はおよそ25m。こんな距離から牛が動くのかと思っていたら動いたのだ。牛はセサルの誘いにゆっくりと動き出しエスタトゥアリオを始めた。驚異的なくらい遠い距離から誘っているのに牛が動く。奇跡としか言いようのない引きだ。ムレタを動かす度にパセの後駆け抜けていった牛は遠くまで離れてから向きを変えて、セサル誘いに乗ってまた動き出していった。セサルはそのままの姿勢で1歩も動かず牛を誘って両足を揃えたエスタトゥアリオを5回6回と繋いで見せた。

 闘牛場は驚きに包まれた。勿論その間「オーレ」の声はこだましていた。それから左手で持ったムレタをナトゥラルをするように回して牛をパセすると観客は立ち上がって喝采を送った。セサルは牛に負担をかけないようにパセをしてアレナ中央部分に牛を持って行ってから、牛からまた距離を取った。15mか20mの距離があっただろうか。距離を取って殆ど1歩も動かずにムレタを動かして牛を誘うと、また牛はゆっくりと動き出してムレタに吸い込まれていった。手の低い長い大きなパセが繋がった。観客は今目の前で起こっている事を信じられずにいたが、牛から離れて何度も15mくらいある距離から牛を誘う度に牛がムレタに向かって吸い込まれていくシーンを何度も観てようやくこれは物凄いことなんだと納得していった。おそらく15m以上離れた距離から誘って牛を動かしたのは10回以上あっただろう。10m以上離れた距離から誘って牛を動かしたのも10回以上あっただろう。

 始めはパセのごとに1回1回牛から距離を取って誘ってパセをしていたが、頃合いを見計らってパセの後に右足を軸に左足を1歩引いて体の向きをパセの後に変えて牛を誘いパセをリガールすると「オーレ」の絶叫が闘牛場にこだました。レマテのパセ・デ・ペチョを決めると観客は興奮して立ち上がって大声を上げたり、フラメンコの本場らしく大きく響く拍手を連打した。こんな闘牛する奴が他にいるか?誰もいやしない。それは断言できる。こういう距離の魔術は他のどんな闘牛士にも真似が出来ないことだ。もうあまりの物凄さに、!Corazon Partido!心が張り裂けてしまった。驚異的な距離からの奇跡のファエナ。牛が持っている能力の最高の部分を引き出すセサル・リンコンという闘牛士の力量の凄さを感じずにはおれない。フィニートやフリではこういうファエナは出来ないのだ。ロベルトはこのファエナを観て同じ事を感じているのだろう。ロベルトとは、フリのアポデラードのロベルト・ドミンゲスのこと。

 ナトゥラルでも7,8m位の所から牛を呼んでパセをリガールした。もう信じられない。セサル・リンコンの完全復活。偉大なる復活を目の当たりに出来て本当に幸せだ。しかしこの場にいる幸せを噛みしめる余裕がないほど、ファエナに集中していた。それにしても左右のパセとも手の低い長いパセが何度も繋がった。特に右手の手の低い長い大きなパセの迫力は91年ラス・ベンタスで4回連続プエルタ・グランデした時の様な感じだった。レマテのパセ・デ・ペチョが決まると喝采が鳴る。そしてセサルの凄いのはパセ・デ・ペチョをした位置から1歩も動かずに立って牛がパセの後に振り向いても平気でそこに立っていた。驚異的だった。

 ナトゥラルでも牛の正面を見て誘っていたり、クルサードは勿論、角2本分やっていたし、何よりも立ち位置(コロカシオン)が良かったし、距離の取り方は完璧だった。距離の魔術のような闘牛だった。こういう闘牛を出来る人は他にはいないのだ。剣はスエルテ・ナトゥラルでレシビエンドを試みるも牛が動かず、ボラピエで良い所に完璧に決まった。が、テンディダだった。牛が膝を着くと闘牛場に白い雪が降った。白いハンカチは闘牛場を埋めつくした。口笛が鳴り、観客は興奮して大声を張り上げていた。プレシデンテは耳2枚与えることを許可した。そして、ハンディージャ牧場の素晴らしい牛も場内1周の許可が出た。セサルは牛へキスを送っていた。ゆっくりと牛が場内1周をした。素晴らしい牛だった。そして奇跡のファエナだった。

 満面の笑みを湛えてこれ以上笑えないような笑顔で耳を受け取り、場内1周が始まった。笑顔でゆっくりとアレナを歩いた。客席から何枚ものコロンビアの国旗が投げ入れられ、それを手に持って行進は続いた。非常の長い場内1周だった気がする。観客からは色々なものが投げ込まれたし、帽子をいくつも客席に投げ返していたから・・・。

 フィニートは、5頭目の牛で耳に値するファエナをしたが剣を失敗して耳を切れなかった。手の低い長いファエナだったが、この牛もセサルがやっていたら遠くから牛を呼ぶことが出来ただろう。

 フリは、3頭目の牛で見せ場を作ったが、特に取り立てて書かなくても良いだろう。

 今日はセサル・リンコンが10年に1回、いや、20年か50年に1回あるかないかのファエナをした。セビージャでもう1度こういうファエナを観ることが出来るのはこれから何十年後になるのだろう。それくらい歴史に残り語り継がれるファエナだった。久しぶりに血が沸くファエナだった。セサルのファエナでは久しぶりで、何年ぶりだろう?あまりに興奮して、それでも写真撮影に集中していて、ようやく場内1周しているセサルを観て涙が流れてきた。今日は良い写真が撮れた。闘牛が終わってからの肩車でプエルタ・デ・プリンシパルから退場していくときのセサルの嬉しそうな顔と、誇らしげなバンデリジェーロの顔が忘れられない。

 今日は本当に良い闘牛を見せて貰った。セサル・リンコンに感謝、感謝、ひたすら感謝。もう今年はこれを観たから後はどんな闘牛でもいい。あーこれってTV中継してないのだ。始めから最後までセサルの4頭目の闘牛のビデオが欲しいなぁ。

 セサル・リンコンが相手にした4頭目のハンディージャ牧場の牛の名前は、“ビオリニスタ”、NO55、546キロだった。


http://www2u.biglobe.ne.jp/~tougyuu/以下のHPの著作権は、斎藤祐司のものです。勝手に転載、または使用することを禁止する。


ホームに戻る   2004年闘牛観戦記