雨の中、エドゥアルド・ガジョが、涙、涙のプエルタ・グランデ!

2004年5月17日マドリード、ラス・ベンタス(第1級)闘牛場の結果。

 晴れ曇りのち雨。風が吹くマドリード、ラス・ベンタス闘牛場。若牛、ロマン・ソランド牧場。ソブレロ、ナバルロサル牧場とアレハンドロ・バスケス牧場。見習い闘牛士、ルイス・ボリバル、セルヒオ・マリン、エドゥアルド・ガジョ。観客は8割くらいの入り。ソルのテンディド5アルトにてTさんとYさんと一緒に観戦す。

 入場行進の後、死んだ人(知らない人)に黙祷が捧げられた。

 ルイス・ボリバルは、セルヒオ・マリンが2頭目でコヒーダされたため1頭目、2頭目、4頭目のファエナと剣刺しをした。彼はやる気はあったがそのことを書いている時間が勿体ないので、次に行く。

 セルヒオ・マリンは、2頭目の牛が悪く交換した後のファエナでムレタを10回も振らないうちにコヒーダされエンフェルメリア(医務室)に行き戻ってこなかった。

 それより何よりエドゥアルド・ガジョ(セルヒオ・マリンが2頭目でコヒーダされたため、3頭目、5頭目、6頭目)。非常に素晴らしかった。雨が降り始めた3頭目。牛はブルラデロへ行かなかった。長いベロニカが繋がると、「オーレ」がなった。メディア・ベロニカを決めると拍手が沸く。牛はパセで前脚を痛めた。ピカは右前に1度、右後ろに1度入った。キーテは、カポーテの裏でパセしたが牛が膝を着いたが、落ち着いたカポーテ捌きだ。

 ファエナは、デレチャソから始めた。パセ・デ・ペチョの後、距離を取り、デレチャソで牛を呼んで長いパセを繋いでパセ・デ・ペチョ。離れデレチャソの長いパセ、右手から左手へムレタを持ち替えて長いパセ、パセ・デ・ペチョ。「ビエン」の声が出始める。離れナトゥラル。手の低い長いパセをするが牛が膝を着く。牛が弱い。「オーレ」が鳴った。長いパセが繋がりかけると牛が膝を着いて観客をガッカリさせた。それでもデレチャソの長いパセが繋がりパセ・デ・ペチョを決めると喝采が鳴った。剣を代えベルナディーナを繋ぎパセ・デ・ペチョ。喝采が鳴る。スエルテ・ナトゥラルで牛を置いて半分より少し剣が入った。ちゃんと決まっていれば耳が出ていたが残念だ。

 雨が強くなった5頭目は、良い動きをする牛だったが、膝を着いたり、転んだりして交換になった。ファエナは膝を折ったデレチャソから始めパセ・デ・ペチョを決めると拍手がなった。デレチャソを長いパセ、ナトゥラルでも長いパセ。クルサードをちゃんとして誘うときは手を前に出してパセの時は体の後ろまでムレタを振って牛を通している。だからパセが長い。牛が時々ムレタをはらったので、「オーレ」の声で盛り上がるが、途切れた。それでも彼はクルサードを繰り返し左右の長いパセを続けた。アジェダード・ポル・バッホからナトゥラルの長いパセで、「オーレ」がなる。パセ・デ・ペチョの後、牛の前で見栄を切って喝采を浴びた。

 後は剣だけだ。剣を代え、スエルテ・ナトゥラルで良いところに決めて牛が倒れた。白いハンカチが闘牛場全体で揺れた。初めてラス・ベンタス闘牛場に出場して耳を切った。初々しいサラマンカ闘牛学校出身の19歳。しかし、やった闘牛は素晴らしいものだった。観客から投げ入れられる帽子などを丁寧に1つ1つ返して耳を持って場内1周をした。

 最後6頭目もエドゥアルド・ガジョ。ブルラデロに行かない牛。長いベロニカが繋がると「オーレ」がなる。牛が崩れた。長いベロニカを繋ぎメディア・ベロニカ、ラルガ2回で「オーレ」と喝采が鳴った。牛は前脚が弱かった。カポーテをガオネラのように後ろに持って回しながらのキーテで、「オーレ」がなる。馬の前に牛を置き喝采が鳴る。ピカは、少し後ろに2度入った。離れると牛が膝を着いた。口笛が鳴り手拍子が叩かれる。牛を代えろと言う観客の願いだ。だが僕は代えない方が良いと思った。この牛は確かに左前脚が悪いが、手をあまり低くしないでパセをすれば、つぶれないだろうと思った。後は闘牛士が丁寧にパセを繋ぐかどうかでプエルタ・グランデになるかどうかが決まるだろう。

 牛は観客へ捧げられた。エスタトゥアリオ2回、パセ・デ・ペチョ。牛から離れアレナ中央へ。遠くからクルサードして牛を誘う。牛が動かない。角2本分クルサードして牛を誘う。距離が遠いのか動かない。近づいて長いパセが2回繋がって牛が膝を着いた。闘牛場に溜息が混じる。デレチャソを繋ぎパセ・デ・ペチョ。拍手がなる。観客は良いパセが早くでないか待っていた。いつ「オーレ」の声を上げるか準備している状態だった。牛から距離を取り、ナトゥラルをテンプラールで長く繋ぐと、「オーレ」がなった。ムレタを牛にはらわれた。また長いナトゥラルと2回通しパセ・デ・ペチョをして見栄を切ると喝采が鳴った。

 デレチャソで牛が膝を着き、ムレタをはらわれた。アジェダード・ポル・バッホからゆっくりした(テンプラール)長いパセが繋がり、「オーレ」がなった。クルサードし直してパセ・デ・ペチョで牛が転んだ。牛を代えなかったプレシデンテへ抗議の手拍子と、「ファラ・デ・パルコン」コールが起きた。剣を代え、スエルテ・ナトゥラルに牛を置き良い剣が入った。牛は口から血を出して崩れた。闘牛場に白いハンカチが揺れた。一斉に口笛が吹かれ早く耳を出すように観客は要求した。耳1枚が出た。エドゥアルド・ガジョは、耳を受け取り場内1周を始めた。今度はワインも飲んだ。場内1周を終えてプレシデンテに挨拶をして肩車がされた。そこで初めて目を手で拭った。自分がやった闘牛の褒美としてのプエルタ・グランデ。その重みと栄光を噛みしめるが良い。牛が弱いのにこんなにちゃんとした闘牛をした。クルサード、牛の誘い方、立ち位置、ムレタの振り方はすべてにおいて素晴らしかった。闘牛場は興奮に包まれている。ラス・ベンタスの観客は新しい未来の闘牛士の出現のテスティーゴ(証人)になった。

 闘牛とは、不思議なものだ。牛にコヒーダされて怪我をする闘牛士がいると思えば、その事によって巡ってきたチャンスを1回でものにする闘牛士もいるのだ。栄光と挫折は常に表裏一体で存在するが、表と裏ではまったく違う価値と評価が結果としてもたらされる。そしてそれが重要な意味と意義を未来にもたらすのだ。そこで初めて人は、この人間はどういう人なのかと知りたがる。でも、本当の価値はそこで行われたことの中に実はすでに集約されているのだ。

 エドゥアルド・ガジョが今日やった闘牛は、トレオ・デ・オロという、体の前から後ろまで通す長いパセで続けられた。こういう素晴らしいパセの連続が今後の彼の闘牛の価値を高めフィグラへの道へ導いていくだろう事を僕は疑わない。素晴らしい闘牛に乾杯!闘牛以外では味わうことが出来ない感動に乾杯!こういう闘牛を観ると、絶対的な価値としての生きるエネルギーを闘牛士から分けて貰っていると事に気付く。

 ありがとう、素晴らしい闘牛。ありがとう、ラス・ベンタス。グロリア(栄光)は、正しく正直な闘牛をするものに寄り添ってくるものだ。今日はエドゥアルド・ガジョとグロリアの結婚式がラス・ベンタス闘牛場で行われ、それにアフィショナードが証人として立ち会った日だ。結婚は永遠のものではなくこれから離婚することもあるかも知れない。が、ともあれ目出度い日だ。エドゥアルド・ガジョの涙はグロリアと結婚できた喜びの涙だった。泣け、思い切り泣け!幸せと掴むことが出来た奴は喜びを爆発させればいいのだ。そういやー、今日は空まで泣いていたなぁ。


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