*5月13日。ハビエル・バスケスに泣けた!

コリーダ・デ・トロス。牛ーペニャハラ。

      フェルナンド・セペダ、フィニート・デ・コルドバ、ハビエル・バスケス。

 1頭目。フェルナンド・セペダ。

牛は向かってこない。ピカは中央の少し後ろの方に入る。牛が悪い。カポーテで呼んでも誘いにのらない。バンデリージャは横っ腹に刺さった。牛が少し動く様になった。フェルナンドはピコで牛を誘う。動かないからだ。牛はパセの時、ムレタをはらう。ちゃんとした良いパセが何回か続く。悪くはないが、それほど良くもない。剣はカイーダで半分入った。拍手を受ける。

 2頭目。フィニート・デ・コルドバ。

 よく場所を移動する牛で立ち止まらない。ピカは左肩骨の上に入った。牛がびっこになった。バンデリジェーロは上手かった。牛がパセの後転ぶ。良いパセで転び、悪いパセで立っている。フィニートの牛はパセが出来ない。剣は3回ピンチャソ。4回目で決まる。

 3頭目。ハビエル・バスケス。

 この牛はパセの時、ハビエルの体の近くを通っていく。ピカはちょっと左に入った。牛はキーテで倒れる。ピカはそんなに間違った所に入った訳ではない。牛が弱いからだろう。バンデリージャは良いところに刺さった。

 テルシオ・デ・ムエルテ。ファエナは膝を折った右手のパセで始まった。静かな立ち上がりだが観客を引きつけている。右手の低く長いパセが続く。ハビエルが牛をアレナの中央部分に置いた。

 それから15m位距離を取って、体の後ろに隠していた右手に持っているムレタをゆっくり前方の牛に向かって出した。彼の重心は左足にある。左足はアレナに対して垂直になっている。前に出した右手のムレタは、牛と彼の体の間にあって、後方に真っ直ぐ伸びた右足は爪先だけがアレナに着いている。

 ハビエル・バスケスがやったこの形が、距離を取ったときの1番最良の牛の誘い方だと思う。ぞくっとする。しびれるよなぁこういうのって。もうこういう形を見ただけで、涙が目に滲んでくる。またその形から牛を呼んでパセをするのだから凄い。手が低く長いパセ。1回2回3回・・・と、続く。「オーレ」の声が鳴り渡る。再び距離を取ってさっきの形で牛を誘う。またその形から牛を呼んでパセをする。手が低く長いパセ。1回2回3回・・・と、続く。再び距離を取ってさっきの形で牛を誘う。

 違うのは今度は左手だ。その形から牛を呼んでパセをする。手が低く長いパセ。1回2回3回・・・と、続く。「オーレ」が、続く。決めはパセ・デ・ペチョ。剣刺しは、スエルテ・ナトゥラルで。グラン・エストカーダ。牛は後ろ脚から崩れて行った。倒れるのは早かった。闘牛場に白いハンカチが揺れる。それが全体を覆った。

 ハビエル。思えば、あなたを初めて見たのは92年のサン・イシドロでした。まだノビジェーロでしたね。

 奇をてらった様な突飛なパセをしてよく驚いたものです。あの頃あなたはまだ両目があって、バンデリージャを自分で刺してましたね。それがダマソ・ゴンザレスからアルテルナティーバをして貰って、93年にラス・ベンタスでプエルタ・グランデしました。96年にバンデリージャが左目に入って潰してしまい片目になりました。

 でも今思います。ラス・ベンタスのプエルタ・グランデは見ていませんが、片目になってよかったと。何故なら本当に良い闘牛をする闘牛士になったからです。今僕は胸が詰まって、涙が滲んでいます。あなたのこのファエナに「ありがとうございます」と、言いたいのです。片目を失ってまであなたを闘牛に向かわせるものは何なんでしょう。片目だから距離感が掴めないはずなのに、それをカバーしているものは何なんでしょう。

 人生は悪い事ばかりじゃない。片目という代償を払って手に入れたものは1番大事な物なのかも知れません。ダマソ・ゴンザレスとの、交友から始まったのかは解りませんが、尊敬するダマソの娘と去年結婚しましたね。闘牛とはあなたにとって全てなのかも知れませんね。ハビエル。あなたを僕の尊敬する闘牛士の1人に加えさせて下さい。

 プレシデンテは耳を出さなかった。観客は、沢山の大きなブーイングと口笛で抗議したが駄目だった。だがその後観客がしたことは記憶に残る事だった。

 拍手喝采でハビエルをアレナに戻すと、ブエルタ(場内一周)をさせた。ハビエルは観客から投げられた花束を手に持って、嬉しそうに笑顔で応えていた。ハビエルの歩調に合わせて彼の前の観客は立ち上がって拍手した。ゆっくりとした観客のウエイブが、ハビエルと共に場内を一周した。

 彼は最後の挨拶をするためにアレナの中央にゆっくり歩いていくと、観客の「オトラ・オトラ・オトラ」(もう一回)の、大声のコールが響いた。観客は「プレシデンテの馬鹿は耳を出さなかったが、俺達の気持ちは絶対今のは耳だ」と、言っているようだった。

 ハビエルはもう1度ブエルタを始めた。彼は笑っていた。観客も笑顔だった。2周目が終わりかけるとまた「オトラ・オトラ」と観客は言ったが、ハビエルはアレナの中央に行って丁寧に観客に挨拶をして、プレシデンテにも挨拶して下がった。観客は再びプレシデンテに対して強い抗議の意志を表した。

 4頭目。フェルナンド・セペダ

 フェルナンドは少しだけ良いベロニカから始まった。ピカは少しだけ左に入った。牛が膝を着く。しかしフェルナンドは良いベロニカを繋げた。牛は再び膝を着く。観客の抗議に応えてプレシデンテが牛の交換を指示した。退場時に牛に去勢牛が乗って交尾の形になって場内に爆笑に包まれる。

 代わった牛でフェルナンドは素晴らしいベロニカを繋ぐ。オーレの大合唱が鳴り響く。始めのピカは背骨の上、肩の少し後ろに入った。馬から離してキーテ。良いベロニカを繋ぐ。本当にシンプルな良いベロニカだ。2回目のピカは左肩上少し横に入った。

 テルシオ・デ・バンデリージャ。良いバンデリージャが刺さった。

 テルシオ・デ・ムエルテ。片膝を折ったパセから始まった。クルサードして右手のパセ。少し距離を取って右手のパセ。近くでナトゥラル。クルサードしている。右手のパセをして、ナトゥラル。良いナトゥラルが2回、パセ・デ・ペチョで締める。剣は1回で決めた。刺さった位置は背骨より左肩側寄りだ。

 5頭目。フィニート・デ・コルドバ。

 出てきた牛はバンデリジェーロのカポーテの誘いに、ある程度の距離まで来るが立ち止まってから違う方向に逃げる。マンソの様だ。ベロニカをするが足を止めてパセを出来ずにいる。フィニートは悪い牛に当たった。ピカは背骨の上、肩の間に入ったが牛は膝を着いた。口笛が鳴る。2回目のピカも同じ所に入った。牛はまた膝を着く。口笛が鳴る。

 テルシオ・デ・ムエルテ。フィニートはちゃんとクルサードして牛を誘っているのに動かない。ムレタを牛の前に出すも牛がちゃんと反応しない。闘牛にならない。ピコで誘っても牛は動かない。フィニートは諦めて剣を変えた。ピンチャソの後3/4剣が刺さった。カイーダだ。牛はすぐ倒れる。

 6頭目。ハビエル・バスケス。

牛はゆっくり出てきた。ちゃんとパセが出来ない。今ピカドールの所にいて頭を振った。ピカが左肩の上に入った。痛がって止まった。血が出ている。2回目はまた左肩上ちょっと前に入った。3回目もさっきと同じ所に入った。牛がちょっとコッホになった。

 テルシオ・デ・バンデリージャ。良いバンデリージャが決まった。角の間で撃った。刺さった所は右の肩の上だ。2回目も角の間で撃った。これは背骨の上に刺さった。凄く良いバンデリージャが3回決まった。拍手が起きる。これでこの牛でハビエル・バスケスの良い演技が見られるかも知れない。が、確率は低いだろう。

 テルシオ・デ・ムエルテ。牛がヒラールしない。パセの後、一啼きした。膝を着いて一啼き。ムレタを前に出して誘って牛が動かず、体の後ろに隠してもう1度前に出す。牛がちゃんと動かなかった。ナトゥラルの誘い方が凄く良い。パセの時、体を過ぎてから手が高くなるのが、さっきと違う所だ。牛を誘う所までは凄く良いが、体を過ぎてからのパセが悪いのと、腰が逃げて動くのが良くない。

 ムレタを体の横に出したまま移動して誘っている。こういうやり方は良くない。これだと普通のやり方になってしまう。牛の前でムレタを2回振る。アバニケオだ。諦めた。牛が動かないからだ。剣を変えた。スエルテ・コントラリアで2回ピンチャソ。剣をムレタで拭いてまたピンチャソ2回。諦めてデスカベジョ。ロベルト・ドミンゲス風のやり方で、しかし出す足は右足で2回目で決める。

===今日の一言===

 ちゃんとしたことをする人にはラス・ベンタスは優しい。ハビエル・バスケスのドス・ブエルタには観客の意志が如実に現れていた。今日は泣けた。ハビエルの牛の誘い方に泣けた。

 あれこそがまさに基本形だ。もうあれだけで良かった。耳を貰えなかったがそんなことはどうでも良いことだ。プレシデンテは耳にしなかったけど観客は認めた。マドリードはハビエル・バスケスを愛している。それは片目だからじゃない。ちゃんとしたことをするからだ。正しいからだ。そして闘牛士として素晴らしいからだ。

 次の30日も良い闘牛を期待しています。今日より良いファエナを見せて下さい。フェルナンドの、ベロニカはやっぱり良い。ファエナも良かった。観客を沸かせたがブエルタもなし。でも彼らしさは充分出ていた。フィニートは牛に恵まれなかった。


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