3. 登頂 〜 下山まで

山頂付近は濃霧と強風に襲われ始めていた。

とりあえず,石の鳥居をくぐり,浅間神社/郵便局の前に
行ってみると,郵便局入り口前に一人と神社の大きい
入り口の前にも1〜2人がいるだけ。

夜中に後続の登山者が来てうるさくなるのも嫌な気がして,
とりあえず昨年野宿した,郵便局の裏へと行って見て
驚いた。
あたり一帯が工事現場になっており,昨年もたれた石垣まで
行けないようになっていたのだ。
すっかりこの場所での野宿を想定していたので,どうしたものかと
悩んだが,風向が定まらずに吹き荒れている強風が,かなりの時間
この郵便局裏手に吹き付けているように思えたので,やはり先ほどの
神社前の方に戻ることにして,そこにあった仮設トイレで用を足す。

建築現場の隅に置かれている仮設トイレみたいな形をしていたが,
一応,燃焼型トイレのようだった気がする。
強風の暗闇の中,トイレの電気だけが煌々と照っている様は
なんとも心強いものがあったが,いかんせん状況が状況だけに,
ゆっくり確認する暇もなかった。

息子はというと,最後の登坂でかなりばてたのと,予想外の荒天に
かなり疲れているように見えたので,急ぎ,神社前に戻り,
神社建物の小さい扉の前のへこみを確保する。

まずは,恒例の雑炊作りを始める。
携帯用ミニバーナーだったので,強風で火が消えてしまわないか
心配したが,無事に着火し,二人分の調理に耐えてくれた。

調理内容は昨年と同じく,卵スープ系の野菜スープに
オニギリを溶かし込んだもの。
自宅を出る時にはカチンカチンに凍らせていたオニギリだったが
程よく解凍されていて,調理に支障はなく助かった。

先にできた雑炊を放心状態っぽい息子に与える。
寒さと疲労の中,暖かい食べ物は最高のご馳走で,
「本当においしい」と美味そうに食べている息子の姿を見ていると
ちょっと可愛そうだったかなとも思えて,なんだか涙腺が緩んで
きてしまいそうだった。

父親も食べ終えると,早速寝床の準備に入る。

昨年は,小さいビニールポンチョをかぶったせいで,凍傷になるわ,
一晩首を前に曲げていたのがその後慢性化してしまい,今だに痛みが
引かないなど,かなり悲惨な目にあったので,今年はその経験を
踏まえ,銀マット+ツェルトをちゃんと用意してきた。
一段高くなったところに銀マットを敷き,置くにおいた荷物に
もたれて二人仲良く並んだ状態で,ツェルトをすっぽりかぶる。
時折り,正面から吹き付ける風にあおられてかなりばたつくが,
疲れ切っていた二人は,すぐに寝込んでしまった。(多分0:00頃)



ふっと目を覚ますと,ツェルトに当たる雨音も聞こえた。
めくれて開いた隙間を尻の下に押し込み,完全に寝ている
息子の足をツェルト内に引き込み,寝床を再形成すると,
完全に目が覚めてしまった。

あんまり動かない息子を見ていて,「まさか疲労凍死してるん
ではないだろうな」という不安が頭をもたげてきて,顔を突付い
てみると,ごそごそ動いたので一安心。

ツェルトが風にあおられるたびに,顔に雨が降りかかるように
なってきたので,隙間を埋めようと探すが見つからない。
不思議に思い,手袋を脱いで内部を触ってその原因がようやく
わかった。ツェルト内部が結露状態で,その水滴が落ちてきていた
のだった。

このままでは,触れている衣服が濡れてしまうと思い,一旦
息子を起こして,カッパのズボンをはかせる。もちろん自分も。
(上着は着ていたので...)
このおかげで,足元の防寒対策が増えたので,更に寝やすくなった
のか,息子は引き続き睡眠へ。

残された父親は,ツェルト内の露を定期的にタオルでふき取り
ながら,ボーっとしていた。
その状況にも飽きてきて,うつらうつらしていたところ,なんだか
周囲が騒がしくなってきているのに気づいた(03:00頃)

どうも,後続で登ってきた連中が,神社建物の軒下に入って風を
よけているようなのだが,その一部に恒例の外人部隊がいるようで,
それも,我々の寝床のすぐ横に。

ワーワーと騒がしいたらありゃしない。なんで外人はこんなに
うるさいのか?(というか,元気なのか?)
ちらっと覗いてみると,多国籍の若者グループみたいで,その中の
フランス人みたいな男の子がみんなのおもちゃにされていた。

そうこうしているうちにも,続々と登山者が上がってくるが,天候が
回復する兆しはなく,山頂はガスに包まれたままである。
04:00を過ぎると,だんだん明るくなってきたのだが,やはり
ガスの中。

  

4:30を過ぎてもガスが晴れないので,とりあえず息子を起こす,
今回は御来迎と最高峰(3776m)は無理だというと,かなり残念
そうだったが,近くに見えるはずの最高峰がガスでまったく見えない
ことを確認するとあきらめたようである。

05:00に山小屋が開いたのを見たが,一気に満員になって
しまったので,恒例の(富士宮口初の)山頂バッジ2個を購入しただけで,
仕方なく,河口湖口/須走り口下山道の方に歩きだしたのだが,
この行程がきつかった。
吹き付ける霧雨で視界が悪いところにメガネも濡れて周囲がよく
見えない。
おまけに,吹き付ける風が強烈で,前から強く吹かれると,息が
できないくらい。風速15m以上はあったのだろうか?

たまたま,父親が何度も通ったころがある道だったので,見えない
なりにも道がわかったが,広場状の場所から道を見つけるのが非常に
困難な状況だった。

遅れ気味の息子を気にしながらの行程は,晴れていれば20分くらい
なのだが,1時間くらいに感じたものである。(実際は30分ほど?)

わずかな人とすれ違いながら歩き続け,大日岳を迂回したところで
ようやく色とりどりのレインスーツが目に入り,相変わらずの大量の
人が目に入った。
例年なら,人の多さにうんざりするところだが,今年ばかりは
正直ほっとしたものである。

一刻も早く下界に降りたい気分だったので,息子に恒例のきれいな
エコトイレでの用足しを勧め(200円/人なり。父はなぜか我慢した)
そそくさと下山道に向かう。

下山道に入っても,時折,山頂方面から吹き付ける強風とガスで
歩きづらく,他の下山者に紛れながら下って行った。

毎年,ゆっくり降りてくる息子を,先に行っては待ちながら
(あまりの人ごみで,一時は見失いかけたほど...),なんとか
河口湖口/須走り口の分岐点にたどり着く。



そろそろ疲れてきたので,ここの山小屋で朝食でもと思ったが,
アンパンくらいしかないうえに,小屋の前の通路も狭く,とても
ゆっくり休める雰囲気ではないので,10分ほどの休憩の後,
須走り口方面にルートをとる。

この須走り口下山は,昨年父親が初めて体験した下山ルートで,
今年の下山道を息子と打ち合わせた際に,「ぜひ,砂走りを降りたい」
とのリクエストがあったので,この須走り口か御殿場口のどちらかを
山頂での体調で決めようということになっていたのだが,先の通り
山頂で散々な目にあったため,とても御殿場口の長丁場に耐えられない
と判断し,須走り口に決めたのだった。
どちらにしても,息子にとっては初めての下山道で(今まではすべて
河口湖口だった)昨年の父親の体験を聞くにつけ,楽しみにしていた
ルートだったとのことであった。

分岐通過直後からとたんに人影が減り,いつも通りの須走り口下山道の
風情が戻ってきた。
その頃には,風,ガスともに少なくなってきており,3000mを切る頃
には,下界の風景や,かなり昇った太陽まで見え始めた。



「これが山頂だったらなぁ」との思いがよぎったが,それよりも空腹による
疲労に耐え難い苦痛を感じ始めていた。

次の山小屋で何か食うか,と考えながら歩いていた時に,ふと,今回
持参していた各種の食料を思い出す。ほとんどはおやつなのだが,その中に
以前息子が初登頂した際に「これは効いた」と言わせた,酢飲料があったのだ。
早速,人気の絶えた下山道の端にしゃがみこみ,不要な防寒ズボンを脱ぐと
同時に,このお菓子&酢飲料をむさぼり喰う。(主に父親)

とたんに元気(というか気力)百倍となり,その先にある砂走りを目指して
歩きだした。

砂走り寸前にある山小屋・太陽館が見え始めたので,「人気の山小屋らしい」
などとうんちくをたれながら歩いていたところ,目の前に一匹の犬が...??
我々を見ても驚きもしないので,もしや太陽館の飼い犬? と思ったら,やはり
そうだった。(見たところ,3匹飼われていた)

犬がいても別にかまわないのだが,嫌だったのはこの犬は下山道のあちこちに
小便をしまくっていたところ。犬の習性なので仕方ないのだが,なんとも
汚らしい。
そういえば,人間様でさえ自然破壊防止のためお金を払ってトイレしてるのに
とも考えると,ますます腹が立ってきた。

太陽館に着くと,元気な犬どもが3匹騒がしいのなんので,さすがに山小屋の
主人もやばいと感じたのか,バイト君?に散歩に連れていくように命じた。
バイト君は3匹の犬に引っ張られながら,更に下山する方向で散歩の様子。

ようやくうるさいのがいなくなったところで,息子と二人でスパッツを
足首に装着する。もちろん,この先の砂走りでの小石よけのためである。

準備完了し,歩きだしたところ,すぐ近くの地面,それも下山道のど真ん中に
小便を巻き散らかした跡が.....

もう,がっくりである。
この事件により,今後,絶対この小屋は使うまいと,父親は胸に誓ったので
ある。便所が異常に汚そうなのも減点対象であった。
(この後に予定されている,娘との登山にむけて,便所のチェックは欠かさ
なかったのである)
食事は美味いらしいし,小屋の評判自体は悪くないのだけれどね。

気を取り直して,待望の砂走りに向かう。

結構な人が降りているが,やや数珠繋ぎ状態。
須走り口の砂走りは,御殿場口のそれに比べて幅が狭いため,ゆっくり降りる
人や休憩する人はかなり意識して脇によけるなどの注意が必要である。
かなり足にきているらしい息子もゆっくり目で降り始めたので,それにやや
あわせつつも,ザクッザクッと砂走りをしばし楽しむ。
途中,道のど真ん中で寝そべって休憩しているお気楽外人などもいたが
(「そんなとこにいたら,蹴っ飛ばされるぞ」と注意したかったが,言葉が...)

砂走りを終えたあたりで息子と合流し,並んで五合目を目指す。
このあたりが,かかとや土踏まずの疲れが限界にくる頃なので,
励ましあいながら目前に(のように)見える小屋に向けて,やや
無口になって進み続け、ようや砂払い五合目・吉野屋着
早速,恒例の冷たいジュースを飲む。美味しい!!!(1本300円だけど)



しばしの休憩の後,残る森林地帯へと突入する。
2.5kmほど木々の間のいわゆる普通の登山道を進むのだが,約1時間
ほどかかってしまうこともあるらしい。
今回は40分ほどかかったかな。

痛みだした膝に注意しながら,ようやく五合目山小屋に着いた時間は9:35。
なんと、9:30のバスが出てしまい,次のバスは10:30だとのこと。
かなりショックで,「10:00発の臨時バスはないんかい!!」と
一人毒づいてみたりしたが,せっかくなので昨年パスした山小屋(土産物屋)
をゆっくり散策してみることにする。これで,昨年の借りも返せるという
ものだ。

買い物も終わり,二人でソフトクリームを食べながら,バスの時間を待って
いたが,その間にも続々とくる観光バスの数に驚いた。
富士周辺ー甲府の果実狩り,などがくっついたツアーバスが多かったが,
バスが着くと,乗客数十人がぞろぞろと登山道方面に歩いていく。
てっきり,五合目の土産物が目当てだと思っていたので,その行き先に
興味深々だったが,追いかけて確認する元気もなかったので,行き先は不明の
ままである。



そんなこんなで,結構早く時間も過ぎ,出発時刻の5分前に,ようやく
JR御殿場駅行きのバスに乗り込み,出発の声を聞くと同時に睡眠に入って
しまった。
目覚めた時には,すでに見慣れた御殿場駅周辺の景色で,渋滞もなく
無事にJR御殿場駅に到着。 終わった...

この後,駅周辺のマクドで昼食を摂り,

御殿場 →(JR御殿場線)→ 松田 / 小田急・新松田 → 小田急・新宿

というルートで帰途についた。

JR御殿場線の電車がワンマンで,途中駅で開かない扉があったり,降りたい
時はボタン開閉という,田舎列車の風情たっぷりで,息子もこの体験に
喜んでいた。
電車はきれいで,乗降客も結構いるんだが,ローカル線扱いの御殿場線。
昔の東海道本線だったことがあるとは思えない,のどかな雰囲気であった。

混雑必至と思われた小田急線も無事に座れ,足の疲れのほぐれを感じながら,
無事,今回の登山を終えることができた。


終わってみれば,今回も結構きつい条件での登山になってしまったため,
今度は,好天時に山頂を堪能できるような楽なスケジュールで,息子と一緒に
楽しんでみたいと痛感した。

来年以降も,また,行くかい? 息子よ?

    自宅 〜 山頂までへ      戻る