万座温泉1泊2日ツーリング(1)
9月も中旬を過ぎると暑さも和らぐ。秋めいた青空を見ると「ツーリングに行きたい」とうずうずしてくる。そしてタイミングよく9月23日・24日は秋分の日の連休である。この連休をツーリングに利用しない手はない。
ところが・・・この日は過去4年間の家内の日記によると「雨」である。「雨の特異日」らしいのだ。思い起こしてみると確かにそうだ。
この時期は秋雨前線に加え、台風がよく発生しているので天候不安定となる要素が多い。
しかし、何事も例外があるというのも事実だ。いくら雨の特異日とはいえ、今年も「雨」と決まっている筈はない。今年は丁度一週間ほど前に台風と秋雨前線の影響で日本中が大雨に見舞われ、東海地方では大きな水害が出た。そしてその悪天候が去ったあと、これぞ秋晴れという好天が続いた。太平洋沖にも台風が発生していない。雨になる要素がない!
一ヶ月ほど前より行き先を「万座温泉」と決め、旅館は既に予約してある。ツーリングの日程をこの連休に決めた手前、その日が近づくにつれ毎日の天気予報が気になっていた。3日前までならキャンセルがきく。
9月19日。旅館より確認の電話が入った。その時点では週末に天気が崩れると予報が出ていたが、天気予報も100%確実ではない。
それほどの悪天候にはならないだろう・・・「当日のツーリングは決行!」と腹をくくり、旅館にその旨を伝えた。
参加メンバーもこのツーリングを楽しみにしている。心配の種はお天気だけだ・・・。今回のツーリングは総勢12名の参加となった。
前日の22日、我が家に、兵庫県は川西市からこのホームページでもお馴染みのHN「鯨さん」こと逸見さんに来て頂いた。出発が早朝のため、前日に我が家にお越し頂いたのである。起床が午前4時なので午後11時過ぎには休んだ。寝る前にTVで見た天気予報では相変わらず「雨」であったが、自宅の外は雨の気配がなかった。
床についても興奮しているためかいつもよりも寝つきが悪かった。家内も同様で夜中に何度も目が覚めたという。
さて、23日である。午前4時の目覚ましで飛び起き、外を見た。雨は降っていない!ホッと胸をなでおろす。
顔を洗い、身支度をしてコーヒーだけを飲み、ハーレーに荷物を積み込んだ。まだ夜明け前のため暗い。
セルを回しエンジンに火を入れるや否や出発した。早朝の風が心地いい。
西名阪国道の大内SAで名張市・天理市・奈良からの方たち5人と待ち合わせている。待ち合わせ時刻に10分ほど遅れて到着。すでに皆さんは到着していた。名張市以外の方3人とは今回が初のツーリングである。簡単に自己紹介し名刺交換して出発となった。
このツーリングのコーディネーターは私なので先頭を走ることになった。
西名阪道に入り、9台で隊列を組み走り出すと気分は最高である。ミラーにハーレーのサイドランプのブルーの色が映えている。
ところが20分も走らないうちに雨が降り出した。路面はすでに濡れそぼっていたので、急遽 ICを出て、路肩に止めレインウェアを着ることとした。「やれやれ・・・とうとう降り出したか・・・。」と空を仰ぎ見る。
全員がレインウェアで見を固めたところで雨の西名阪道に再び入った。雨足はきつく本降りである。私のウルトラのウィンドシールドは目線よりも低いため雨粒がビシビシと顔を打つ。ヘルメットもジェットタイプでしかもシールドがないので尚更だ。めがねのレンズにも水滴がつき視界がすこぶる悪い。走行車線を走っていると追い越し車線を走る車から水しぶきをかけられる。
「いつまでこの雨と付き合わなければならないんだろう・・・」とこの先が思いやられる。他の皆も同じように思っている筈だ。
・・・そう言えば、前回の夏のツーリングも大雨の中を走った。あの時も大変だったが、今回はこの先ほとんどが高速道である。雨の高速道を長距離走るのは勘弁願いたい。時速80キロプラスほどで流した。やがて伊勢自動車道分岐を過ぎ、関ICにさしかかった。そこへ偶然にも伊勢湾ハーレークラブのメンバー3名が合流してきた。予定では東名阪道に入ってからの御在所SAで待ち合わせることになっていた。
幸先よく早くに走りながらの合流となったわけだ。
東名阪道に入る手前で亀山PAに立ち寄った。
ここでアクシデント発生。家内のヘリテージがエンジン不調を訴えた。入り口でエンストしたと無線で連絡が入った。歩いていってみると家内が言うには、「さっきから急におかしくなり始めた。スピードががくっと落ちたり急に加速したりする・・・」。
エンジンがかかったので皆のいるところに移動した。ここで症状を聞いたメンバーの加藤さんが、「プラグかもしれない・・・」と言って、プラグを新しいのに替えてみましょうと工具を出し始めた。同じような症状を経験したことがあるらしい。
Vツウィンの後ろの方のシリンダーのプラグを新しいのに交換した。エンジンをかけると何事もなかったかのようにエンジンが回っている。
駐車場内を試走してみたが問題はなさそうだ。予備のプラグを用意している周到さに感心しつつ、見習わなければ・・・と思った。
一難さって胸をなでおろしたところで出発した。
東名阪道に入り、次は御在所SAで休憩である。走りながら無線で家内にエンジンの調子はと尋ねると、「まだ何かおかしいみたい・・・」と言う。スピードを上げずに走り、次の御在所SAでもう一度点検が必要のようだ。
御在所SAに入り休憩。すぐに加藤さんが心配して尋ねてくれる。「まだおかしいようです・・・」と言うと、加藤さんも首をひねり「おかしいな・・・。もう一度プラグを替えてみましょう。」とプラグを付け替えた。
予定よりもさらに少しずつ遅れている。ここで朝食とした。簡単な朝食を済ませ、再び雨の高速に入った。
家内に尋ねると「相変わらずおかしい」と不安げである。スピードを抑え、やがて東名阪から名神高速へとつながる高速道に入った。
料金所を出たところで道路わきにハーレーを止めた。加藤さんも心配して見にきてくれた。そこへ丁度料金所から「ハーレーダビッドソン針店」のスタッフが通りかかった。渡りに船である。彼らは富士スピードウェイでのブルースカイヘブンミーティングに向かう途中だったのだ。皆で大声を上げて彼らを呼んだ。幸いにも気付いてくれた。
事情を説明したところ、ハーレーの名古屋店に寄ってプラグを持ってきましょうということになった。そこで清洲東ICで出て、国道22号線に合流したところで待ち合わせることにした。
雨は遠慮なく降り続いている。雨宿りする場所もなく国道の路肩にハーレーを止め、プラグを持ってきてくれるスタッフを待つこととなった。
一時間ほど待った。ようやくプラグを届けてくれた。新しい純正プラグを6本持ってきてくれた。わざわざ回り道をしてプラグを取りに名古屋店まで出向き、戻ってきてくれたのである。ほんとうに有り難く思った。
さらに待っている間に、加藤さんが「私が一度奥さんのハーレーに乗って様子を見てみましょう。私のハーレーに奥さんは乗ってください」と仰ってくださった。加藤さんはメカに詳しいので、実際に乗ってどこが悪いのかを調べてみましょうというのである。
新たに届けられたプラグは使わずに、家内のハーレーに加藤さんが跨り、加藤さんのハーレーを家内が運転してようやく出発となった。
国道22号線を北上して、名神高速一宮ICに入った。
ここから延々と高速道を走っていかなければならない。雨足は一向に弱くならない。
今日は目的地までずっと雨が降り続きそうである。予定の時間もだいぶ遅れだした。しかし、焦っては危険である。時間のことは気にせずにとにかく安全第一で目的地の旅館に向かうしかない。6,70キロほど走ればSAに入り休憩や給油というパターンを繰り返す事にした。
名神高速から中央道に入り、最初のSAである「内津峠」で小休止した。既に二時間以上の遅れである。
家内のハーレーにここまで乗ってきて下さった加藤さんが、「これはプラグじゃない・・・。イグニッションコイルかプラグコードあたりがおかしいみたいですね」と説明してくれた。
どうやら雨のために電気系統がおかしくなっているようだ。
「なんとかだましだまし走れば行けそうなのでこのまま私が乗っていきましょう」と言って下さった。家内は調子のいい加藤さんのハーレーに乗れて一安心である。
最初から雨やエンジントラブルなどと先行きが不安であるが、ハーレーの針店のスタッフに助けられたり、加藤さんのようなメカに詳しい方が参加メンバーにおられたりと救いの神がついているようだ。
SAで小休止しては、また雨の高速を走る。走り出してしばらくの間はいいが、すぐにまた雨が苦痛となってくる。濡れることよりも視界が悪いこと、路面状況に気をつけて走らなくてはならないこと、他の車などに気を使わねばならないこと・・・などなどお天気のいい時のようにライディングを楽しむ余裕がないのだ。また、先頭を走っているために後続のメンバーのことも絶えずミラーでチェックしなければならない。
雨粒が露出した頬を針のようにチクチクと刺激するのも不快だ。
自然に目は次のSAを探している。
正午過ぎ、ようやく駒ケ岳SAに到着。SA内の駐車場で二輪車の関係した事故があったようで、パトカーが検分していた。ここに入るまでに対向車線側では事故も目撃した。雨のためにスリップ事故も多いようだ。
「ここで昼食をとってゆっくりしましょう」と皆に伝える。
家内のハーレーは、加藤さんによるとだいぶ調子がよくなってきたと言う。
昼食を済ませ、出発する時は家内も自分のハーレーに乗ることにした。やれやれである。
走り出して無線で家内に調子を尋ねると「ほとんど気にならないくらい良くなったわ」と喜んでいた。やはり電気系統のトラブルだと思うが、このまま無事今日の宿までもって欲しいと願う。
幸いなことにその後も最初のような変な症状も出なかったようだ。
やがて岡谷ジャンクションで長野自動車道に入った。雨はまったく容赦なく降り続く。次の休憩は松本ICを過ぎてすぐの梓川SAだ。
ここまで来ると比較的直線路が多い。80キロほどで走行車線を走っている車を、時には追い越し、メリハリをつけて走った。昼食後で居眠りが来るのが怖い・・・。雨の中でも絶えず一定速度で走るとやはり単調なのだ。家内に後続の様子を時々尋ねる。家内のハーレーもなんとかグズグズいわずに走っているようだ。
やがて梓川SAに到着。かなり予定よりも遅れている。
ここのSAはバイク用の駐輪場が無かった。仕方なく歩道の縁石に沿ってずらりとハーレーを並べて止めた。ハーレーを降りて私たちは雨を避けて建物の陰に入れるが、ハーレーたちは雨ざらしのままだ。
高速のSAのバイク用の駐輪場は整備されているところもあれば駐輪場すら無いところもある。
こんな雨の中を走ってくると、せめて屋根つきの駐輪場をきちんと作っておいて欲しいと思う。
10分余り休憩したところで出発した。
高速はあと一息で終わる。雨のツーリングはトンネルに入るとホッとする。しばらくは雨を避けて走れるからだ。
更埴ジャンクションで上信越自動車道を関越方面へと入った。トンネルが見えてきた。「よかった・・・。トンネルだ。」とトンネルに入ったとたんにムッとする熱気を感じ、ウィンドシールドが曇り、めがねまで曇って前が見えなくなった。
「!」。
慌てて減速してめがねをずらして視界を確保した。しかし、鼻めがねで見る視界はぼやけて(私は近視である)危険この上ない。トンネル内の換気がまずいのだろう。トンネルの外と内との温度差がかなりある。暖かいのはいいのだが、バイクに乗っているライダーには非常に危険だ。
おまけにこのトンネルは片側一車線で中央にポールが立っている。
ようやくトンネルを抜け、めがねとウィンドシールドの曇りは取れたが、今度は雨の洗礼を受ける。
すぐにまたトンネルが見えてきた。今度のトンネルは短い。換気が良かったのか、曇らなかった。ホッとする。
こんなトンネルが幾つか続いた。トンネル内がムッとするとシールドとめがねが曇る。またもや鼻めがねで、ぼやけた視界を頼りにゆっくりと走り抜けた。トンネルの外に出てホッとする。
トンネル地獄を抜け、いよいよICの標識が見えてきた。早く高速から出たいという気持ちが強かったのだろう。上田菅平ICで降りるべきところを一つ手前の坂城ICで降りてしまった。
料金所を出たところで地図を確認した。幸い国道が高速に沿って走っているのでこのまま国道を走って行こうということになった。
時刻はすでに午後4時・・・。本当なら旅館に着いているところだ。携帯電話で旅館に電話をいれた。下道を使えばまだ二時間くらいはかかるでしょう・・・とのこと。遅れることを伝えとにかく出発だ。
国道18号線に出て、上田市方面に走る。途中で給油。ここでまた時間がかかった。スタンドには一人しかおらず、一台一台ハーレーに給油するのだから仕方がない。30分以上かかってようやく全員のハーレーは満タンとなった。
ここへ来て、雨がようやく小降りになってきた。一般道路を走るので高速に比べるとずいぶん走りやすい。
しかし、天気が悪いため、薄暗くなってきている。町を抜け上州街道を北上。長野県と群馬県の県境を過ぎ、道は長野街道となった。もう日は沈み夜の帳が下りている。小降りとはいえ雨は降り続く・・・。
嬬恋村方面に走るとやがて万座ハイウェイである。あと一息だ。
万座ハイウェイの料金所に入る手前から登坂となり、雨だけでは不足なのか、今度は霧が出てきた。峠道をまだかれこれ25キロほど走らなければならない。時刻は既に午後7時前となっていた・・・。
ハイウェイの料金所を過ぎると高度が少しずつ上がっていく。霧はかなり深く、視界は10メートルほどだ。路側と中央線を見ながらとろとろと走っていくしかない。もう苦痛以外の何者でもない。最後の詰めで「霧」に見舞われるとは思わなかった。
途中でいったん止まり、各自走りやすいペースで走りましょうと提案。
こんな霧の中の登りの峠道を12台も連ねて走るのは却って危険だ。車間距離をあけて、走りやすいスピードで走ったほうが安全だ。
道は一本道。ハイウェイの終点が万座温泉なので、終点あたりで集合とし、走ってもらった。
こうしてようやく霧の万座ハイウェイを抜けようやく万座温泉に到着した。
目的の旅館を地図で確認し、旅館に着いたとき思わず「万歳」を叫びたくなった。大きな事故もなく無事到着したことで肩の力が抜けるのを感じた。「ほんとうに皆さん、ご苦労様でした。」
チェックインしたのが午後8時・・・。
部屋に荷物を入れ、濡れた雨具やグローブを乾かしてもらい、食事前に一風呂浴びさせてもらう。
温泉は硫黄の匂いが漂い、とてもいい温泉だった。湯船に体をつけると芯からホッとした。13時間かかってやって来た甲斐があったというものだ。
午後9時前からようやく夕食となった。大食堂で皆が集まったところでビールで乾杯。今日のつらく長かったツーリングの行程を酒の肴に振り返り、談笑しながら食事をした。皆の顔にも安堵の表情が見てとれる。
・・・それにしても明日の天気は大丈夫だろうか・・・。外は雨がまだ降り続いていた・・・。
一日目終わり