自宅から5分も走れば・・・
99年9月28日に突然、思うところあって住みなれた奈良から三重県の名張市に引っ越した。といっても引っ越しすることなど話が決まるまでは自分でも予想すらしていなかっただけに、引っ越してから自分でも驚く始末である。
名張市は周囲を自然に囲まれた人口8万5千人の町である。阪神、中京の中間的な場所に位置しており、主要鉄道は近畿日本鉄道である。
住宅事情としては土地の利を活かしてあちこちに一戸建て住宅用の団地が造成されている。私が移り住んだ団地は約3500世帯が住居を構えている。
道路事情は高速道路こそないものの、西名阪国道(自動車専用国道)が近くを走り、名張市を国道165号線をはじめ3桁国道が他にも貫いている。
従って、大阪方面は勿論、中京方面や伊勢・志摩方面への交通も便利である。
さて、引っ越してからしばらくの間は荷物の整理やその他の雑用などであっという間に時間が過ぎて行った。しかし、10月9日にはようやく殆どの雑用も終わり息をつける余裕が生まれた。タイミング良く朝から秋晴れの好天である。長い間我慢してきたストレスを発散するには絶好の天気だ。
話は簡単にまとまり、家内と娘とともに朝の8時半から近所を少し走ってみようということになった。
早速エンジンを始動し、ガレージからバイクを出し初のミニツーリングと相成った。団地は丘陵地帯にある。ちょうど中腹あたりに自宅があるのだが、家を出て5分も走らないうちに国道368号線となりここを名張市街から東へと遠ざかる方向に走る。3分ほどで比奈知ダムである。このダムは竣工してちょうど1年目の新しいダムである。
ダム公園として整備され、ダムの下にはデイキャンプなどが楽しめるような設備もある。
ダムそのものも大きくダムの上を横切るとダム湖を囲むようにして道路が周回している。人気は勿論、車も殆ど走っていない。時速20キロくらいでゆったりと見物しながら走る。ドッドッドッ・・・という重低音の排気音が湖岸道路の崖に反射して心地よい。
考えてみれば娘も共に3台でのツーリングは久しぶりである。私が先頭を走り、娘を間に挟んで家内が後ろから見守る形で走った。私と家内とはアマチュア無線器を通じて会話が出来るので安心だ。バックミラーで娘と家内のバイクをチラチラと確認しつつ、いつもよりはゆっくりと流した。
比奈知ダムは家から10分ほどで来れる距離なので、先ずはこのダム湖に沿って走る368号線の休憩エリア(パーキングがあってダム湖を展望できるようにきれいに整備された所)のひとつに入って小休止。久しぶりのバイク、しかもいっしょに走るという緊張感をほぐすには早めにちょこっと休憩するのがいい。
ヘルメットを脱ぎ、バイクの調子、周囲の紅葉の始まった景色、その他の他愛のない話をして二人の様子を窺う。娘も家内も絶好調の様子である。
タバコを一服してすぐにハーレーに跨り、「さあ、出発!」となった。
ダム湖を過ぎると国道は狭くなり、やがて村の中を走る。人影は見えない。両側に民家が並びその間を国道が貫いている。民家の塀にハーレーの排気音が小気味よく反射して心地よい。畑で仕事をしている村人が我々の排気音のハーモニーに気付いて振り返った。
国道は村を抜けると再び広くなり片側1車線の対向二車線道路となる。遠くの山々は紅葉がきれいである。デジタルカメラを持ってこなかったことが悔やまれる。
以前だと奈良からツーリングに出かける時は必ずカメラを持参していたが、今回はちょこっと走るだけだからとカメラは持ってこなかったのだ。時期を考えれば紅葉のシーズンだから景色がいいのは当然である。にもかかわらず、カメラを持ってこなかったのは油断である。ここは奈良ではなかったのだ。このあたりは以前によくツーリングで通ったこともあるところなのだ。
奈良からだと、確かにここまで来るだけで二時間弱はかかる。今回は家を出て、途中で休憩したとはいえまだ15分ほどしか走っていない。
悔やんでも仕方ないのであきらめた。国道をどんどん走ってもいいのだが、今回は国道を途中でそれて県道に入った。この県道は小さな峠越えの狭い道であるが、ここを抜けると名張市の南部を回りこんで、「ぶどう狩り」で有名な青蓮寺ダム近辺に至るのだ。乗用車だとまったく対向できないような、狭いがきちんと舗装された山道を排気音を轟かせながらぐいぐいと登っていった。幸い対向車は一台もなかった。やがて峠を過ぎて下りとなった。約10分ほどで狭い山道を抜け道が広くなった。まもなく今度は青蓮寺ダムのダム湖の上流に沿って走る県道に合流した。ようやく車がちらほらと走っている県道である。これをダムへむけて走ると5分もしないうちに我々の住む団地入り口の進入路である。
進入路から数分で自宅である。
自宅のガレージに戻りいつものように「今日も無事でよかったね。お疲れさん!」と声を掛け合いホッとする。時計を見ると家を出てから40分弱なのには驚いた。
今日は走ったコースが短いとはいうものの、その行程の90パーセント以上が快適な道路だったのである。残りの一割にしても決して快適でないというのではない。名張市を出るのと帰り着くのに走った道が一割程度だったということなのだ。しかも渋滞は皆無である。
これが奈良からのツーリングだったとしたら途中の街中を走ったり渋滞にあったりと全行程の七割くらいが快適でない道となる。
そう考えるとツーリングの最も美味しいところ、快適なところがタップリ詰まった内容のあるツーリングをわずか40分で味わったということなのだ。地元だから当たり前だと言われればそれまでであるが、たとえ地元でも周囲にツーリングして快適なところがあるとは限らない。以前住んでいた奈良ではそんな環境は周囲近くにはなかったのである。
引越し先を名張市に求めたのはたとえ通勤が遠くなってもライフスタイルとして、例えばツーリング、あるいはゴルフ、あるいはスキー旅行、あるいはアウトドアー(キャンプ)などなど、といった「遊び」を中心に考えたからに他ならない。
今回たまたま天気が良かったために「ちょっと走りに行こうか!」とそそくさと出かけてみて、時間にしては一時間にも満たないミニツーリングであったが、内容的には十分に堪能できるものであった。このことが実感できて「引っ越してきてよかったなぁ・・・」と家内ともども喜んでいる。
本稿は昨年(1999年)のことを回想しつつ書き起こした。本来ならばツーリング後にすぐに書きたかったのであるが、多忙のため落ち着いて更新できずに今日に至った。その後2回、同様のミニツーリングに出かけた。次回にまたそのことを綴ろうと思う。
