限定解除への挑戦
当時、限定解除するには指定の試験場で実技試験に合格する道しかなかった。いわゆる「飛びこみ」という試験である。
試験場にふらりと出掛け、当日試験のコースをいきなり走って合格できるのは神業に等しい。コースを覚えるのはともかく、課題項目があり、中型二輪の基準よりも厳しいのである。
例えば、「一本橋」走行という課題は、中型では7秒以上かけて走ることが要求されるが、限定解除するには同じ一本橋を10秒以上かけて走らねばならないのだ。3秒の差は大きい。幅30センチ、高さ5センチほどの長さが15メートルの「橋」を脱輪させずにゆっくりと走るのは意外と難しい。10秒かけて渡るには歩く速さくらいで走行せねばならない。他にも課題があって中型よりも難度が高い。
運の良い事に、私の住む奈良県では、公安委員会主催で、限定解除する人に対して月2回ほど有料で講習会があるのを知った。おまけにその試験場を練習コースとしているのだ。これを利用しない手はない。私は早速申し込んだ。
小型のテープレコーダを持参した。思ったとおり、最初に実際の試験コースを走行する時に、どのような点をチェックされるのかといった細かい注意点の解説があった。非常に些細な点が、減点の対象になる事を知った。説明の後は実際にコースを走らせてもらえるのだ。練習で走った時に、事前に聞いた注意点が非常に多くて「これではとても一発で合格できるわけがない」と思った。
帰宅してからコース図を見ながら、録音した注意点を聞きながら何度もイメージトレーニングした。
さらに、コースが休みの日にカメラとビデオで実際のコースを撮り、それらを見ながらコースを徹底的に頭に叩き込んだ。通勤の電車でもイメージトレーニングを繰り返した。
これだけすると、もうあとは実際にバイクをその通りに走らせさえすれば合格は目に見えている。
いざ試験当日、私は合格するのが当然というくらいの気持ちで臨んだ。いよいよ順番が来て、バイクに跨りコースを走り出した。順調に走った。ところが、交差点で左右確認して進もうとしたその瞬間、視界の片隅に赤が飛びこんだ。咄嗟に、赤信号と気づき急停止したが、停止線を前輪が過ぎてしまった。
そこで後ずさりすれば減点で済んだらしいのだが、動転して「あ・・・」と思ってそのままにしていたため、試験官から「試験中止」の勧告を受け、あえ無く不合格となってしまったのである。
言い訳をさせて頂く。実は、練習の時は信号があることは承知していたが、作動していなかったため、私のイメージトレーニングでもそこの交差点を含め、全ての信号は作動していなかったのである。従って交差点では左右の確認だけというお粗末な癖がついていたのだ。
帰宅しつつ、情けないやら腹が立つやら・・・・・。
早速、次の試験に向け今度は信号をイメトレに加え、励んだのは言うまでも無い。
2回目の試験は、気負いすぎてスピードの出過ぎで、スラロームの課題コースでパイロンを引っ掛けて敗退した。3回目は無事コースを完走するも、安全確認が出来ていないとの注意を受け又もや不合格。
4回目の受験当日。朝から大雨。コースは水浸しでいかにも走りにくそうである。流石に、この日は最初から「こんな日だと、今日もだめかな・・・」と気分も梅雨空のように曇っていた。バイクに跨っても、不思議と気分は昂ぶらず「今日は練習でいい」という感じでゆったりと走った。しかし、却ってこれが良かったのか完走後、試験官から「はい、今日は良い走りだった。合格です。」と言われたのである。
この日、受験した約30名の内、合格したのは私を含め5名だけだった。
合格する事を半ば諦めて、気負わずに走った結果が「合格」である。喜びは一入であった。
そのまま試験場で待ち、免許証の裏に「限定解除」のはんこを押してもらったのである。これで、どんなバイクでも乗れると思うと、頑張った甲斐があったとしみじみと思ったものである。
さて、限定解除したからには、大型バイクに早く乗り換えたい。いよいよ、ホンダのシャドウ1100に乗れるのだ。カワサキのバルカン1500もいいな。その気になればハーレーでも乗れるのだ。夢はどんどん膨らんだ。
