『鳥インフルエンザ問題の今後(]X)』



公的見解の多くは公式主義の言葉通り現実に即しない仮定の事柄に基づいたものが多いが、我が国を鳥インフルエンザ清浄国と見なした上で立てられる施策は、常に根底から覆される危険をはらんで居る。9月21日の農水省養鶏問題懇談会の内容も種の供給元を国内で確保し輸入停止に備える方向のみが論議され、逆に国内で発生して輸入にたよらざるを得ない場合は想定外扱いにしてしまう。考えようによってはこんな危険なことはない。だから先般の北日本大会での各県道代表の質問内容も、よく勉強しているなという評価もあれば逆の見方もあり、それぞれが勉強する場で、まるで違う内容になってしまって対策もバラバラになりかねない。

現実には採卵鶏だけでも国内に1億数千万羽が居て、そのほぼ全量が一年以内に更新されて居る。病気が有ろうと無かろうと日量40万羽が廃鶏処理されている勘定になる。当然鶏にも日常的な病気があり、それらは一切治療されることなく処分されている。形式的には日々の斃死鶏は報告することになっているが大部分は淘汰されて処理場に回される。当然その中には何らかの疾病で成績が上がらず繰り上げ淘汰されるものも含まれる。そして処理場での検査の実態は浅田農産の例で実証済みである。つまり鳥インフルエンザに関して、遺伝子組替え再集合の恐れのある全ての株を含めた効果的サーベイランスが行われない限り実態は一切分からないとするのが本当なのだと思う。

現代の養鶏場では甚急性の致死的疾病を除き、予兆としての産卵低下段階で全て淘汰される。近頃の医者は病気を見て患者を診ないと言われるが、獣医はもっとひどい。養鶏場付き以外の獣医は鶏について全くの素人で、それでは養鶏場での対策が立てられるわけが無い、研究者とて同様である。経済行為としての養鶏現場では、あえて病性鑑定に出して結果を待って居ても何の得策もなく、一切の抗菌薬は使えないから一刻も早い淘汰こそが唯一の手段となる。だから急性の呼吸器症状が出れば気管支炎、顔面が腫れればコリーザかSHSということで、それ以上の類症鑑別は必要としないから仮に鳥インフルエンザが絡んで居ても立ち入り検査しない限り分からないだろう。そういえば最近は何々ウイルスが原因だろうとするようなシンドロームの類いが多い。自然界では様々な細菌ウイルスが絡み合って混合感染したり広い意味での免疫の交差が行われているのに、交差免疫や細胞性免疫の分野の研究が容易に進まないのは、相手が複雑で、とても実験室の手に負えない部分が多すぎるということなのかもしれない。

それにしてもウイルス学会なども、人型との間で人間もまた混合容器たり得るとまで懸念しながら、南中国で問題になったH9N2が、それの絡んだサイレントエピデミックスや遺伝子組替え再集合の面では危険極まる反面、一方でH,Nとも亜型が違うのにキラーT細胞による免疫が確認されるなど、様々な要素が自然界に存在するのに、不活化ワクチンだけをいたづらに危険視するなど、あまりにも実験室にとらわれて、木を見て森を見ない習性を暴露しているようにも思える。

ともあれ人型の場合、我が国の気候では冬の流行期の抗体が温暖期の発症を防ぎ、また寒冷期になると小変異して流行を繰り返すのが常であることを考慮すれば、鳥インフルエンザの場合も時季になればいづくともなく現れて来るとするのが普通だろう。はっきりしない、いわゆるundiagnosed deathsという形の事例は、例年いくらでもあった。それらもまた繰り上げ淘汰の対象で鶏の入れ替えは当然の如く繰り返されて来たというのがこれまでは普通ではなかったのか。それがはっきりHPAIとして姿を見せたのがうわさでは去年から今年にかけてだったがさてこの冬はどうなるのだろう。