『鳥インフルエンザ問題の今後(]W)』



北日本養鶏研究大会も終わった。立錐の余地も無い大盛会だったが、全国展開で署名運動をやろうという提案に拍手するのもはばかられる紳士的な集会だった。対決は期待しなかったが、喜田先生の名答弁(詭弁とは云うまい)は際立った。99%私も同意見と煙に巻いて、主眼のワクチン問題を残りの1%に入れてしまった。日本は本当に清浄国かという司会者の問いには「同じストレインに関しては」と限定してしまった。OIEの勧告に対しては「絶滅不可能な場合の一般論」として司会者を一蹴した。ワクチン接種によりウイルスが危険な変異を起こさないかとの質問には「ナンセンス」と答え、もともとクレイジーな質問だがとカプアさんには断った上だと質問者をあわてさせた(ように見えた)。しかし実際には民間の鳥インフルエンザ不活化ワクチン試験でAntigenic driftを危険な突然変異と読みちがえて指導している事実があり、このことは人間のインフルエンザワクチンで毎年繰り返され、安全性は周知の事実なのにと逆に訝る事例がある事からも確認するのは当然だろう。一方で説明のあったサイレントエピデミック(潜在的流行)に対するウイルス学会などの警戒ぶりは異常なくらいで、これは当初、感染症研究所に入った症例に対する驚きが更に増幅され、その学会では鳥インフルエンザはインフルエンザではないと捉えられていることから、極論すれば鶏などいないほうがいい立場の人達を相手に、産業側からのワクチン要求はニューカッスルの時とは比較にならない困難さを感じる。その意味からどうせ間に合わないのなら、我が国では人、豚、鶏(97家衛試調査)共通亜型H3N2,H1N1のうちアメリカで一部使われているという(D・A・Halvorson)既存のH1N1鶏用ワクチンを要求出来ないものかと個人的に思ってきたものである。

さらに司会者が持ち出されたメキシコでの過去10年ちかくの壮大な実験の正当な評価は是非必要で、単にOIEのいうDIVAでないからとか隔離が不完全で無秩序だからというだけで失敗と決めつけるのはどう考えてもおかしく、一番重要なことはその間少なくともHPAIの発生を防いで来たことである。東南アジアなどのレポートをみてもH5N1はもはやendemic(風土病)であるという。鳥も人も自由にウイルスを持ち運ぶフリーキャリアの時代に根絶とか清浄国にこだわることこそナンセンスではあるまいか。

専門家の云われることは大いに傾聴すべきだがその彼らの知識でさえ自然の営みのなかで知り得ているのは九牛の一毛に過ぎない。司会者の云われるとおり実験室内での結果など、例えば喜田教授の云われる個体では二週間でいなくなる可愛いウイルスでも自然界の集団の中では人知の及ばぬ移動を繰り返しているのは想像に難くない。

業界側と行政、研究者との乖離は一向に縮まらない。今度発生をみたら壊滅的と業界はみているのに、國と研究者はたったの24万羽、しかもそのストレインに関して根絶に成功、我が国は相変わらず清浄国と唱えている。それにもし摘発淘汰が間に合わなくなったらワクチンを打たせると云っても、直ぐには間に合わない不活化ワクチンをリング状に打って、その鶏は廃棄するというのではとても鳥インフルエンザ対策とは言えない。それに一旦条例を作って対応するとブロイラーのようにワクチネーションそのものは可能なのに、後付けの条例に合わないことで不可能にしてしまう。これでは養鶏業界はどうなってしまうのだろうと振り返れば、各地で講師を呼んでトレサビリティの講習が盛んだ。自分がやられたときはどうするのかと奇異に感じることもある。