『鳥インフルエンザ問題の今後(]T)』



インフルエンザは人畜にとって究極の病(やまい)であるという、もうかなり言い古された表現も、未だに基本的には認識されていないらしい。AIだけをみても、ここまで変異したウイルスは最早水鳥だけの世界におとなしく戻ることはあるまい。人のインフルエンザの場合はもう既に何度もパンデミックを繰り返し、絶滅どころでなく有効なワクチンで制御したりしながら次の汎流行にそなえているのに、家禽のほうは全アジアに跨がるH5N1の大発生を見た後でも、日本は云うに及ばず世界三機関と云えども、まだ根絶にこだわり、対策に混乱を来している。もし本当に(究極の病)ととらえるなら、逆にメキシコのやりかたなどは範とすべきではないのかと思う。振り返って人類も抗生物質、抗菌剤を開発し多くの有害な細菌を押さえ込み、特に我が国では国民病の結核も不治の病ではなくなり、戦争のない平和と栄養の改善と共に、世界一の長寿国にさえなった。その反面、種々の抵抗菌が出現するのも、もともと微生物種の根絶など人間の思い上がりに過ぎないことを如実に示したものといえそうだ。ただ、何の対策もなく放置しておけば敗北は明らかで、医学の進歩は人類の繁栄に欠くべからざるものであるのは確かである。

繰り返すように、本当にインフルエンザを鶏の場合も究極の病と捉えるなら、ワクチンはむしろ打ち続けなければならない筈だ。それなのにワクチン接種は病気の流行を長引かせる結果となるとする我が国や世界の研究者の一部に残る考えは、その認識を欠いた文字通りの姑息なそれであるといえまいか。それでも流石にワクチネーションが公衆衛生上危険だとする我が国の研究者の主流を占める考えを支持する勢力は世界的に少なくなった。にもかかわらずタイ政府が、その懸念を含めてワクチンを禁止するとのProMED情報が流れて心配したが、直ぐに議論では公衆衛生問題は出ていない、ワクチンを使うと家禽は3年間AI根絶地域産と認証しないOIEとEU規則に輸出国として対応したものだとする別のコメントがあって納得したところである。
同時に、貿易に係る国際間の規約も欧州のそれをなぞるだけでは東南アジアの輸出国は永久に浮かばれないとする論調を見ても、我が国の経済全般に対する影響を考えて、タイ国経済がそのために疲弊するのを黙って見ているのは決して得策ではないと思われる。
本来、卵と鳥肉は動物蛋白摂取を必須とする人間にとって哺乳動物の肉より種的に遠く、安全な存在である。その上飼料効率もはるかに良い。特に老齢化社会となる日本の高齢者の健康のためには、今後共欠くべからざる食材である。「菜食でも鳥肉と卵は別」とするのは洋の東西を問わないという話も聞いた。

何度でも云うとおりインフルエンザは人畜共通の究極の疾病という基本認識がなければ、その対策の合意も得られない。清浄化とは逆の方向かも知れないが、インフルエンザのパンデミックが家禽の世界でも起きた事実から考えれば、2、3年で元に戻すとするような姑息なことが通りそうもないことは歴史的にもはっきりしていることだろうに。

心配されたSARSは新しい患者が出なかった。だから鳥インフルエンザも再発はないかもしれないと或る学者が云っていたが、一人のスーパーキャリアが持ち歩くコロナウイルスの反乱とは恐怖感は同じでも、どう見ても性質が違いそうだ。浅田農産の例を見るまでもなく、ウイルスに入られたら即倒産とされる、特に大型養鶏にとってはこの冬だけの問題ではない、将来を見据えた対策と視点が必要である。
インフルエンザが究極の病だとするのはいわば大局観、必要な着手の一つがワクチンだとは言えまいか…。