『鳥インフルエンザ問題の今後(W)』



我々生産現場では今冬の発生は、あくまで《プレ発生》だったと捉えて居る者も多い。1925年〜26年の家禽ペストとしての三府県に亙る発生も記録としては1924年になっているところを見ると最初の発生はその前年だったのだろう。教科書などではそれで鎮圧出来たことになっているが、その後H7亜型は馬でも大発生し、現在も鳥インフルエンザ欧州型の主流として君臨して居る。昭和40年代に入ってのニューカッスル病も大流行の前振れがあったし気管支炎もそうだった。喉頭気管炎のような種類だとその後消えてしまったようなものもあるにはあるがミクソウイルスではそんな例はない。

政府も、各養鶏場から家畜保健衛生所への報告を義務づけて、摘発に万全を期して居るように見えるが、逆にここ数年発生報告の増えて居たニューカッスルなどの情報も消えてしまった。SARS騒ぎの際、普通の肺炎患者の報告までなくなったのと似て居る。あえて作為的だとは云わないがLPAIなど関連があっても手続き的に対象外のものの扱いなどどうなっているのか気になるところである。情報も地方衛研までは届いても、それが行政に渡ると各地方の事情で色々な形になることも過去にはあったから油断は出来ない。

H5亜型の本格的発生、それにH7亜型の侵入はこれからと考える。H5N1はここ数年、アジア各国で猖獗を極めたが、日本がそれと同程度のレベルでワクチンで抗体を付与してあれば、さしものH5N1も行き場を失って消滅、もしくは弱毒化する時期に来るかもしれないが、低いレベルの国が、そばに存在するうちは侵食を続けるに違いない。

ワクチンに反対する学者達は、重要な問題として、ワクチンがウイルスの病原性を変化させて人に感染するような変異を促すことを懸念すると云うが、ワクチンは野外株の病原性を弱めると解釈するのが普通である。つまり置き換え効果であり、そのような一般的解釈を抜きにして、危険性だけを強調するのは恣意的に過ぎまいか。

そんな折、政府は外国に人を派遣して、またぞろ鶏の葬式の研究をするという。まったくいつかの英字新聞の記事ではないが「政府も学者達も養鶏農家の追い込まれた心情を全く理解していない」のである。(“The goverment and researchers don't really understand the situation poultry farmers are forced into, "said Ichiro.)

ただ、今のところ少なくとも表面的にはウインドレスの企業養鶏も、自然養鶏の人達もホームページなどで見る限りは、比較的冷静というか寧ろ夫れ夫れ自分のやり方に自信をお持ちのようにも見える。そんな中で、小泉首相が不自然な養鶏法による卵を、完全栄養食品として疑問を持つとメールマガジンに乗せている。聖書に「生めよ増殖よ地に満てよ」と神から祝福されたノアの子孫も地球上60億にもなろうというとき、多少は不自然であっても大切な食料供給を怠ることは出来ない。これら企業養鶏が大量供給すればこそ世界一の卵消費率のもと世界一の長寿国としての面目も保って来たとも考える。これが崩れた時、気が付いても遅いのではないか。現に、鳥インフルエンザ大発生を体験した国の中には、その必要量の大半を輸入で賄わざるを得なくなったところさえある。とりわけ老齢化を迎える我が国では食の安全は充分な供給態勢を常に考慮したうえで考えねばならない。すなわち充分な自給体制なくして食の安全など有り得ないのが本当である。一方で確たる防御法もないまま、身辺を整理して侵入に備える人達も多い。これはほとんど古いニューカッスル体験者で、平飼いでも、ノーワクの怖さを知る連中だ。