『鳥インフルエンザ問題の今後(V)』



養鶏場の子供に卵アレルギーはない。赤ん坊の時からフィードバック(馴致)されているからである。日本が世界一の長寿国になったのは戦後の高度成長期以後で、肉食の普及と期を同じくしているといわれ、なかでも卵の消費率は世界一で長寿との相関を如実に示している。最近は古希どころか健康なら70歳くらいでしわくちゃな人は見られなくなった。アルブミンの補給が順調な証拠だと医家は云う。

一方で若い人達の高脂血症や痛風が増えている。どだい高齢者と若い人では身体の機能も、諸々の条件もまるで違うのだから同じように捉えたら無理だ。我々老人の等しい願いは最後まで元気でいて死ぬときはコロリというのに尽きるが、其の意味で平均寿命も元気でいられる期間を指すのでなければ意味がない。卑近な例で申し訳ないが、養鶏をやっていた家内の両親は共に90歳を越え、東京から夫妻で車で見える大正10年生のK先生もその度毎に「アルブミンの補給は大丈夫か、卵はちゃんと食ってるか」と喝を入れられる。

鳥インフルエンザ風評被害の最たるものは、この老齢者にとって、一番安全で健康生活に欠かせない卵かけご飯を食卓から遠ざけてしまったことだ。鳥肉も同様で、繰り返すように老人の健康生活に欠かせないアルブミンの補給を困難にし、このままでは世界に冠たる長寿国からの転落も予想される事態になって来たと云える。

鶏の飼育でも動物蛋白すべてを大豆粕などの植物蛋白に置き換えて健康を保持するのは困難で、特に銘鶏繁殖など品種保持に老鶏を使う場合は、動物蛋白が必須である。この鶏の例で分かる通り、血清蛋白の過半を占めるアルブミンの補給には充分な動物蛋白摂取が欠かせない。これは決して私の我田引水などではない。医家の一様に認めるところである。

ところがテレビ番組などでも、老齢者の健康問題を取り上げても、若い人の基準をそのまま当てはめたり、その根幹部分を疎かにして、枝葉の論議を繰り返すなど興味本位になってしまうものが多い。鳥インフルエンザの風評で特に問題なのは一般消費者だけでなく、栄養問題研究者までが明らかに鳥肉、卵を避けていることである。これは実際聞いた話で、困ったものだと感じた次第である。鳥肉など飼料効率の点でこれに勝る食肉はなく、卵抜きに老人健康問題が語れないのは、長寿と卵消費の相関数字が示す通りである。

鳥インフルエンザは本当はこれからの問題であると捉えている。特に近年は摘発淘汰を完全にした積もりでも、発生がその年限りで部分的に収まった例はほとんどない。其の意味では大して意味のない部分的な清浄国論など引っ込めて、国も安全な、ワクチン接種許可に踏み切って貰いたいものだ。

なお、最近ホームページなどをにぎわしている、鶏の飼養方法の違いによる効果など、ミクソとパラミクソの違いはあるものの、かつてのニューカッスル病を体験したものなら、ワクチン無しのそれがどんなに怖いものか、今回の鳥インフルエンザ発生で改めて思い返したに違いない。NDもその猖獗時は5、6羽の農家養鶏まで全てやられたのだから。