『鳥インフルエンザ問題の今後(U)』



5月に動衛研によって今回の鳥インフルエンザウイルスの病原性解析の結果が明らかにされたので、それに沿った対策を考えて見たい。

今回、特に我が国において、あくまで鳥の疾病である鳥インフルエンザが、あたかも直ちに人間のインフルエンザに変異してパンデミックを起こす懸念があるように吹聴され、それが大勢の白装束による鶏の生き埋め作業の報道画面と重なって、消費者に抜き難い恐怖感と嫌悪感を与えたことが、現在でも尚、卵の消費が元に戻らない最大の原因であり、特に高齢者の健康保持に欠かせない卵を彼ら自らが遠ざけてしまう風潮を作ってしまったことは、取り返しのつかない失政であったといえる。これを今度の解析結果(罹患鶏は100%死亡)から見ても、いたずらに殺処分を急がず、周囲を覆ってウイルスの飛散を防ぐほうがよほど合理的であることが分かるし、鶏にとっての悲惨さは同じでも人々の受ける印象とその後の影響は大違いであったと思われ、そこまで勘案する有能な指揮者が居なかったことが、その後の事態を一層悪くしたと云える。

さらに重要な示唆は今後の再発懸念に関してである。鶏舎周囲のネズミの保毒の危険性についても、毒力の低いまま、中枢神経でも増殖するマウス実験が示され、これなど野外で原因不明の鶏呼吸器病発生時にヘタリネズミが散見された事例などと照合して、改めて不気味であり、野鳥に限らず矢張りネズミも注意する必要がある。

それにしても政府の、もう明らかに陳腐化した清浄国論は取り下げるべきだ。生産者もそれによって外国産品の輸入を阻止するなどという姑息な政策には加担すべきでないと思う。少なくとも、周辺諸国に合わせたワクチネーションを実施して同じ水準で備えなければ、いつかはやられてしまう。もう古い教科書にあるように、罹患鶏は100%死亡するから、或いは発症鶏を残らず淘汰すれば続発は絶たれウイルスは根絶するというような迷信は持つべきでない。一見それで成功したように見える国のほうが実際ははるかに深い不安を抱えて居る。少なく共そのような方向は我が国の状況、民意に沿っているとは思えない。

5月水曜日号のさる英字新聞が発信したように鳥インフルエンザ対策で、ここまで政府行政、学者側と生産業界が対立するのは異常である。国内の主流派学者は頼むに足らずとみた生産者側は、このことに経験豊富な外国の研究者を招いて6月にシンポジュームを開こうとすれば、政府側は、あくまで生き埋め先進国のオランダ、カナダに研究者を派遣して生き埋めの方法を相談し、食の安全をテーマに、また消費者を巻き込んだワクチン反対論を行うらしい(涯なき泥濘)の先には、今春よりずっと危険な秋以降が待ち構えていることだけは覚悟しておく必要がある。

それにしても人間のインフルエンザを含めて、夏の間ウイルスはどこに潜んでいるのか。確かに暑い間はウイルスを含んだ飛沫核は直ぐ生体に取り付かないと死んでしまうから感染は起きにくい。その取り付くべき生体だがShopeの実験ではブタのインフルエンザのウイルスと菌はミミズを中間宿主とするブタ肺虫に取り付いて往復するのだという。それはネズミかも分からないし池の魚のジストマかも分からない、少なくとも本命の渡り鳥がすべてではないだろう。

確かに大規模養鶏のウインドレス鶏舎は消毒を完全にすれば飛沫核感染は起きにくい。しかしそこに収容された鶏は基礎免疫による僅かな非特異抗体しか持たない筈で、知られざる妨害勢力が野外に存在してもその影響は全く受けずストレートに被害をうけてしまいかねない。