『鳥インフルエンザ問題の今後』



1925年から翌年にかけて、千葉、東京、奈良に発生した今で云うH7N7HPAIは続発することはなかった。それ故、感染鶏は100%死亡し感染源が自然消滅して容易に撲滅出来るとの神話が生まれた。当時の外国での例もそうだったから、その神話は世界的に広がった。各国の権威者たちもそのように教えられて来ているから、今でも彼らの主張の根幹にはHPAIは摘発淘汰によって根絶出来るとの概念が染み付いている。我々はそのような神話、良く云えば歴史が現代に通用するのかどうか疑う必要があると思う。

5月5日のデイリーヨミウリに大槻教授のコメントが出ている。そこで彼は「今回の処置でウイルスを押さえるのに成功した。それゆえに私はワクチン実施はあまりにも早すぎると確信する」と述べている。農水省も「Our aim is to eradicate the virus,」と相変わらずだ。

生産現場はようやく落ち着きを取り戻した。消毒薬は売れなくなり問屋は返品の山だ。中大雛は引っ張りだこで早くも秋から暮への相場を当て込んでいる。養鶏とはこの位無頓着そして素直に政府や権威者のいうことを受け入れなければ出来ない仕事でもある。そのかわり一旦事が起きれば全部相手のせいにしかねない面もあるが。

そうではあっても実際は生産者で鳥インフルエンザはこれで収まったと思っている者はいない。我が国の防疫態勢が抜きん出ていると思う者もいない。何故ならその対策は抜け穴だらけだからだ。それなのに何故取り敢えずは防圧出来た形になったのかといえば、やはりH3,H1などの人間、豚などと共通のLPAIの分布をあげる人が多い。(NDとの免疫の交差や干渉は昭和40年代に猖獗を極めたそれが、なんの妨害も受けなかった事実から、特異抗体の出現はあまり期待出来ないとの見方がほとんどだ。)

抜け穴だらけの対策の最たるものは、そのLPAI対策だ。イタリアの事例では温暖期のLPAI摘発が後手に回ったことが翌年にかけてのHPAIの大発生につながったと反省している。確かにイタリアの場合はLPAIとは云ってもH7タイプで、その点我が国ではLPAIといえどもH7の場合は摘発の対象に挙げている。問題はまったく対象外のH3,H1だ。これらが罹患発症すれば疑似患畜みたいな形になるというが、其の際これを淘汰するのかワクチンを打たせるのか未だに方針が出ていない。従って発症しても表面化しない。もし学者達が懸念するように、新参のH5タイプが人型に変異することがあるとすれば、H3,H1タイプの再流行によるパンデミックの危険性はそれにも増して大きいのに、そのことには一切言及せずH5の懸念だけを意識的に吹聴するのはどう考えてもおかしい。それにワクチン接種をするとウイルスの変異をうながして危険だというが、これなど明らかに逆でワクチンは野外株の病勢を弱くするとするのがむしろ常識であろう。

既に永年ワクチン接種を続けている養豚の場合と比較して、家衛試の調査以来表向きの結果は発表されないがH3,H1タイプの鶏への分布は全国的だと思われている。ただ豚と違って鶏の場合はワクチンも許可されずフィードバックも行われていない。従って現状では育成段階の雛にND,IBなどの生ワクチンのほかにMgやIBDのワクチンもオプションでなく基礎免疫付与のために接種することが必要だと思っている。

過去の有名な実験のようにH5も暖かいうちは、豚でなくカラスやネズミとミミズの間を往復して時節到来を待っているのかも知れない。少しはおとなしくなって出て来るかも。