『鳥インフルエンザ、秋冬対策』



表面的には今期の鳥インフルエンザは終息した形だ。唯、次の寒冷期に向けて2000年前後のイタリアの事例を想定している識者、養鶏家が多いと思われる。その轍を踏まない為には、ここでしっかりLPAI対策を立てておくのが、その教訓だが、もともと清浄国論の日本で政府、行政には、その気配すらない。確かにHPAIに対してはモニタリング調査を強化するが、一方のLPAIが野放しの現状ではイタリアに学んだ事にはならない。

尤もLPAI調査をきちんとやると、真の清浄国として摘発淘汰補償かワクチンかの二者択一を迫られることになり、偽の清浄国としては、それに踏み切れまい。

確かに、我が国での鶏のLPAI調査は1997の家衛試の報告以来発表されていない。しかし、豚、イノシシなどの調査結果から鶏の場合も十分推量出来る。何故なら豚は鶏と同じα2−3の受容体を、人のα2−6と合わせ持ち、人→←豚、豚→←鶏それぞれの互換性は、我が国のH3N2,H1N1に関しては、かなり確定的と考えている人がいるからである。

そして実際野外で、豚ではPRRSと共にSIFの深刻な被害が報告されているし、鶏でもここ数年来、それと疑わしい症例が散見されて居るのは前述の通りである。そして密かに危惧していたのはイタリア、メキシコなどの報告に触れて以来、それら我が国既存のLPAI(H1,H3)がHPAIに変異しないかということだった。変異するのなら何も新しい必要はない。現に1976年のニュージャージーの事例ではH1N1のパンデミック再来が予想され4000万人以上にワクチン接種して押さえ込んだとある。(後に接種者とギランバレー症候群との因果関係が問題視され接種中止)(北里大学)

その鶏に散見されて来たMPAIに似た症状は、NBIワクチネーションプログラムと屋外型鶏舎ではNB,NDワクチンの追加接種で、ほぼ防げてきたことはPPQCの加藤先生の記述通りである。これはH5N1が侵入した現在でも変わらないと思う。唯、発症した際の重篤度が違うだけだと考える。

実験室内の鶏はSPFだからインフルエンザ菌やブドウ状球菌を絡ませると重症になることが知られて居るが、野外の鶏は非特異反応に悩まされるほど、弱いとはいえ非特異免疫を持ち、それに南中国のH9N2で確認されたヘルパーT細胞によるIgの産生で、鳥インフルエンザに対する特異免疫の交差が期待されるなど、やられて見なければ分からぬとはいえ、個々の養鶏場としては何とかなりそうな気もする訳である。尤もとびとびの発生でも今度のように消費者が逃げてしまえば同じだが。

一方で庭先養鶏のチャボ、烏骨鶏などで相変わらずNDの発生が見られたり、ウインドレスを過信して基礎免疫を疎かにしたり、プログラムを持たない育成場もあるなど、発症の懸念も消える事はない。何しろワクチンが使えない中での工夫に過ぎないから。

ただ繰り返すように、狭い島国で、人が毎年100万人以上の罹患、豚が80%以上の陽性と来れば鶏への分布も同程度と考えてしかるべきで、国の戯言通りの清浄状態だったら日本の鶏など夏を待たずに壊滅していたろう。
だからこれで春ビナのワクチンが間に合っていれば不安は払拭されていたとさえ思われる。

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