『鳥インフルエンザ 養鶏現場の考察』



この冬、関東地方のインフルエンザ患者は少なく、一人も外来のない医院も多かったらしく、こういう年は集団免疫が上がっていないので、熱帯地方並に一年中、小集団発生が続き兼ねないという。これに反して、低温期に流行を見た年は、その集団免疫が上がって居るので夏場の流行は無く、免疫を迂回していたウイルスが翌冬に変異して再び流行するというのが、考えられるインフルエンザのパターンだそうだ(当場指導医師)。

豚の方は去年は特に仔豚の斃死が多く、一貫経営で居ながら仔豚は他所から導入せざるを得ないケースもあったそうで、夏の中から、地方によってSIFも流行したがPRRSのワクチンが認可され今年は対策を強化しているとか。

そして鶏の方は経営難が深刻化して全体がおかしくなって来た。余力の無くなった飼料メーカーの提携、統合が続き制度資金の窓口の全農を頼らざるを得なくなって居る。資金的にも養鶏は半官業みたいになって仕舞うのか。政府の小委員会での発言では、養鶏農家の安心の為のワクチンならやるべきでないとして居るが、その安心感がなければヒナも入れられないし銀行も金を貸さないのだが。
そんな末期症状の中でウインドレス鶏舎では搬入前の基礎免疫ワクチンプログラムと、その後の徹底したバイオセキュリティを心掛けるよりないが、解放鶏舎の対策は、これまでの基礎免疫ワクチンプログラムは問題ないとしてもNBLVスプレーなどは危険だとして、避けて居る方が多い。

野外のウイルスによる抗体反応は、たとえ発症しても2〜3週間で急激に落ちる筈なのに、豚の抗体はいつ調べてもワクチンをしなくても落ちないのは不思議だが、それだけ野外の分布が多く、不顕性感染を繰り返して居るのか。若しそうなら鶏も積極的に暴露して免疫誘導や干渉作用を期待出来ないか(疑似患畜になってしまうが)と私自身は考える。

鶏の主な受容体はα2−3,人間はα2−6で異なり且つ体温が違うから移りにくいと云われて居たが、東南アジアなどのH5N1はSARSウイルスやH9N2とのアソータントかもしれないというし、日本に分布しているH3,H1と合体して人に感染するようになることもあるだろうし、現にハノイでは、その両方に感染した豚が見つかって居るし、ニュージャージーの例のように、古典的なH3N2が、それ自身で変異してパンデミック再来が危惧されたとか、カナダ、オランダなどでは人へのH7の感染が確認されるなど、最早何処から大流行が始まっても不思議でなくなって来て居るらしい。

デパート、スーパーなどの鶏卵、肉のお客は元通りには程遠い。消費の落ち込みはこれまでの最高で、たとえ、とびとびの発生でも これ以上続けば回復は不可能に近い。処理場が忙しすぎて小規模養鶏では廃鶏処分が出来ない。採算は取れないので、家保に届けて処分せざるを得ない話を聞く。何しろこれまで以上に強制換羽が危険視されて先延ばしの調整が出来ない。小委員会での、養鶏農家の安心感がどうのと云う呑気な話ではなくなっている。消毒薬は一カ月待ちだが、支払いが滞り薬屋が納品を躊躇して来て居るそうである。これも運動して政府に買って貰うよりない。こんなふうに政府の大方針に従おうとすれば、養鶏経営も否応無しに、自立経営ではなく、官頼みの方向にならざるを得ない。これだけ官に牛耳られれば、そう考えてくるのは当然かも知れない。

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