既に深刻過ぎるほど深刻だ



政府による意見交換会が終わったところで、はっきり云って勝負はついた。養鶏現場の末端から、情報交換しながら周囲の養鶏現場の状況をつぶさに見て居る立場としては、政府の対応と学者の話を、まあ何と呑気で見当違いなと呆れる思いだが仕方ないだろう。この非常時にウインドレス鶏舎の半額補助とは恐れ入る。それに関してウインドレスはネズミに弱く、またそのネズミが一番危ないとしたら、ネズミが危険とすることに対する獣医師会の反論が出て居た。動物衛生研究所の実験がネズミの鼻にウイルスを付着させることで行われたことに関して、データを示し、結果としてネズミは危険でないとの結論であるがウインドレスにも唯一自由に侵入できるネズミの危険性は実験結果云々だけでなく、常に常識として持つべきであって、その視点が欠けて居ることを問題とするのである。

何しろ実際の防圧マニュアルはハエがウイルスを脚に付けて飛ぶ半径30キロを想定して作られて居るのに、その何千倍ものウイルスを体中に付けて鶏舎の内外を自由に走り回るネズミを、実験方法の範囲でしか捕らえないのなら、実際の野外での事例に役立ちそうもない。実際にネズミはちょっとしたスキに配送車などに潜りこみ驚くほど遠くに移動する(キングラットの移動例等)。そして海外の報告でも野鳥の侵入出来ないウインドレス鶏舎での発生も多く、サルモネラ同様いつの場合もネズミの駆除が重要視されて居る。このように、実験結果の数値のみにこだわり常識的な視点を欠くと、かえって信用を損ない、専門家としての鼎の軽重を問われることになる。ネズミの死体は養鶏場周囲では常に散見される。ただ多くは野良猫、カラスなどに食い荒らされるから日中は見つかりにくいだけで、筑波での実験でも摂取したウイルス量が多ければ斃死率50%としているから、それを食うネコ、カラスへの影響は軽視出来る筈がない。そのネコについても、タイで、ウンピョウやホワイトタイガーなどと共に、鶏を食って死んだとするProMEDなどの情報があり、それを一般の人が皆、目にして居る時代である。安心を与える為の安易な否定の繰り返しだけでは、例えば喜田教授が病気のニワトリは変色するから市場に出ることはない、カラスが感染することはない、と云ったやさきに、検査員の目を潜り抜けた鳥肉や感染死したカラスが見つかるなど、事実は事実として真摯にとらえていかなければ、返って不信を招くことになる。何でも想定外とすることは危機意識の欠如に他ならないからである。

それにしても、もういい加減で、政府も生産者も、実態と合わない清浄国論は引っ込めてもらいたいものだ。清浄国の旗を降ろしたとたん、ワクチンを打った外国産の卵肉が押し寄せて来て、国産を圧迫する事への懸念は生産者としては感謝すべきだろうが、それには自国が安全でなくては、もろ刃の剣どころでなく、先に崩壊してしまいそうだ。

また、日本は衛生管理がしっかりしているから、諸外国と違って、これからも飛び飛びの発生しかないだろうとの委員たちの合意は、そのことで受ける生産者の痛手をあまりにも軽視した発言で、彼らのノーテンキ振りを遺憾なく示した許し難い事例である。周囲を巻き込み、当の生産者が進退窮まるだけでなく、またしても生き埋めを見せられる消費者は、更に遠のいて消費の回復は不可能になり、本当に日本の養鶏産業は壊滅しかねない。もうこのところの経営難で待ったなしの廃鶏処分を受けて、どこの処理業者も不眠不休で、空の鶏舎はどんどん増えるばかりだ。こうなると日本国は戦前のように中央集権でなく、地方分権で、国の威令より地方の事情のほうが優先する場合も有り得、どの地方もこれ以上の消費者離れを防ごうと、清浄地としての立場を守るのに官業とも必死なのだから、もし一件でも発生したら死活問題である。とにかく、もう日本中の養鶏が瀕死の状態だ。

H 16 3 21 I,S