養鶏現場報告(2)16・3・15



卵は足らないのに相場が上がらないと業者がこぼして行った。トレサビリティなんてのは過去の話になりつつある。責任をもって継続的に生産することなど、何時トリフルにやられるかという状況では不可能だからだ。ホームページで紹介されている1971年の馬インフルエンザの話は養鶏仲間の共感を呼んだ。30年前の役人は偉かったという話。変な学者が変なほうへ引っ張っぱって行き、犠牲を大きくする。オランダと同じだ、国賊だという話はそこから出た。当時の馬たちはストリキニーネを打たれなくて良かった、そんなむごいことをしたら競馬の人気そのものが落ちる。テレビで鶏生き埋めを度々見せられて、タマゴを見ると思い出すから養鶏場には近付かない、という人がいるほど日本人はナイーブだ。本当に日本が清浄国なら殺処分で初期段階に押さえるのは当然で、その代わり摘発が遅れれば爆発的に広がりかねない。ところが実態は発症こそなかったものの、日本では強毒に分類されるH5亜型は1983年以来、大槻さん自身の手で渡り鳥から分離されていたとあるし、もうひとつのH7亜型は1971年に馬1型として、更に弱毒型H3、H1は1996年岩手、鹿児島で同定されて以来、東北以東にひろく分布していることが確かめられている。

このような事実があるのに、あたかも清浄国であることを装って、初期通報の遅れに全責任を被せ、責任逃れを図る輩はやはり許せない気がする。通報を義務づけると云ったって、家畜保健所自体どの県でも一様に、もうマニュアルで「当地方は安全ですから」を繰り返し、市民が不信感を募らせている。実際手が回わりっこない。経営難から餓死の鶏は増えるし、いろいろな罰則を総動員して逃げ道を塞ぎに掛かっても追いつく訳がない。そんな中で、片寄った情報に基づくウインドレス鶏舎建設の半額補助など税金を使っての見当違いの大判振る舞いは続く。今の時期、鶏がどうなるか分からないのに鳥小屋を作る者が何処に居るのか。近くのブロイラー養鶏も韓国に近付きつつあると途方に暮れている。まあ養鶏業者も青息吐息だが、それでも鶏卵業者からは制度資金があるだけ未だ良いと、うらやましがられている。確かに彼らには何もない。

トリワクチンも育成中のプログラムに組み込んで、継続的に使うことを前提にしなければ意味がない。事ここにおよんで先延ばしするのは、実際は用意ができていないのを隠すためだ。実質65万羽分の備蓄など備蓄と言えない。見せかけだけのそれを対象にした、先日の(案)などごまかしの上塗りに過ぎないことは週刊誌などでも皆分かっているのだ。そしてこの問題に関しては、むしろ週刊誌のほうが政府の言うことより真実に近いと云うこともある。もともとはFAOなどが最後の手段としてその使用を勧めている、確実な使い方をすれば実際は有効なワクチンを、現在の清浄国主張のご都合だけで、政治家まで使ってけなし続け、結局最後に困るのは学者と行政自身ではないのか、かえって責任を問われることになるだろう。それは政府の云うとおり清浄国で通るなら養鶏現場としてもそれに越したことは無い。

しかしその実体は、既に病気が何処から出ても不思議でないと厚生労働大臣がはっきり云っているのに、清浄国なるが故に、ワクチンも使わせず、発生を見たら、消費者離れ原因の最たる殺処分と周囲の移動禁止が対策の全てでは到底納得出来るものではなく、清浄国の旗の下でむざむざ討ち死にするのは御免だとするのが我々の主張である。それに幾ら人間と鶏は対策が違うとしても、人の場合はウイルスが変異しないようにと作業員にヒトワクチンの接種を勧め、一転、鶏には変異するからとトリワクチンを認めない、もう少しうまい説明が出来ないものか。あまりにも恣意的である。