H7N7 ウマの成功例を見よ



我々の現役の頃、特に家畜衛生試験場が近くにあった頃は、互いの情報が行き来していた、と云うより情報源は現場から持ち込んでいて、今の研究者のように現場事情に疎くはなかった。その点はまさに隔世の観がある。従って蒋介石ならぬ、「そんな学者は相手にせず」の立場から周辺の事情を考察してみる。

去年は特に、ヒナの育ちが搬入先によってバラつき、気管支炎様の症状が各地で見られ、IBワクチンを変えるほど、返ってひどくなった例もある。気になったのはネコのインフルエンザ症状とネズミの不審死(クマネズミ)が散見されたことだが文献のかぎりではトリインフルエンザ罹患ではその症状は見られず獣医もFVR(ヘルペス)であろうとした。トリインフルエンザ情報もアメリカからの情報としてH5,H7に対してH1が使われているとあるが、さすがに南中国の粘膜免疫の例(もっともこれ自体はHPAIの摘発を不可能にした元凶扱いされているが実際はおおきな進歩につながる)と違って、にわかには信じ難かった。

国内でのトリインフルエンザについては1996年、香港風邪がブロイラーで発症したとされ、翌年の家衛試の追跡調査で、低い陽性率ながら、H1,H3に関しては東北以西に広く分布していることが明らかにされ、その頃から変な呼吸器病の噂も耐えなくなり、臨床研究者の報告などで、嫌でも関心を持たざるを得なくなって来た。同時に人間の医者から、その亜型が日本で流行するA型インフルエンザと一致することで、案外夏の間は鶏の体内にかくれているのではと、共通性は否定しながらも冗談としては何時も話題に上っていた。一方大槻さんも、たしか1983年頃渡り鳥の糞からH5N3を分離されたとあり、今回の流行が同じH5亜型であるところから、にわかに渡り鳥説に傾いた。その同じ大槻さん自身の口から日本はトリインフルエンザ清浄国であるといわれ、なにを血迷ったかと一瞬我が耳を疑ったが、ともあれ我々養鶏現場としては、ニューカッスル以来、中和抗体より局所免疫を重視して来たので(特にわが家では)既にあるH3,H1の抗体が、日本の場合、かなり邪魔をしてくれるものと、かすかに期待していたのは、これまで述べた通りである。このほかに、生ワクチンとしてワクチネーションに組み込まれた、MgやHタンパクを持つNDがある。分業によって、育成中に確立されたプログラムで、少なくとも我が国では、イタリーのように間隙をぬってNDごときにやられる筈はないと思っていたら、情報によると今回被害をうけた養鶏場では、既にイタリーなみであることが分かり、改めて衝撃を受けた。

ところで本題。ウマではトリに先だって、トリ高病原性タイプと同じH7N7が馬1型として知られ、我が国でも1971年6000頭以上の競走馬などが罹患したが、今回の鶏のような可能性としてのヒト型への変異をやたら危惧することなく(これが人畜共通の炭疽病で戦前などの例では殺処分だった。)素直に緊急輸入のワクチンが使用され、接種が継続されることにより、以後騒がれることはないと云う(今川 浩)。このウマの成功例との比較など喜田、大槻さんその外、誰からも出て来ないのはどうしたことか。どうして人畜共通病をこれほど恐れながら、必要と思われる比較検証を一切しないのか疑問視するのも私だけなのか。

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