正確な議論による啓蒙が必要だ

当面一番危険なのは急激に鶏に発症させて養鶏場従業員がそれに係わること、そしてそれがきっかけでウイルスが人に感染しやすいように変異すること、その為にはアジア全体の状況に鑑みて、我が国の鶏は予め広くワクチンで発症を防御して置くこと。そのワクチン使用の目的は唯危険な発症を防ぐことだけでなく、環境中のウイルスを減らして、むしろウイルスとの共存を図り、ひいては人類の安全に期待するのだということを、FAOなどの勧告とも相俟って、我々は主張を続けて来たことは1月15日付以来の当場のホームページを見て頂いても明らかである。

我々の業界はこれまで鶏に対して抗菌剤、抗生物質の類いは薬事法の厳しい規制もあって特に採卵鶏では一切使用せず専ら許可された範囲のワクチネーションによってのみ、鶏の感染症を防ぎ、安全な生産物を消費者に提供して来たことは万人の認める所であろう。

ところが今回のトリインフルエンザワクチンに関しては、主導する学者達の恣意的発言もあって、甚だしきはワクチンによって卵肉が汚染されるとするような、我々が過去、啓蒙にこれ努め、もうすでに広く消費者に了解されている事例まで蒸し返され、またそのことに一言の説明も行わず、あくまで我田引水を図る学者達の態度は本当に許すことが出来ないと業界人なら誰もが感じている。何のための学者達だとぼやきつつも降りかかる火の粉は払わねばなるまい。そしてそれは学者達の云う将来的、一般的な想定ではなく、今現在、業界と国民が置かれた危機的状況のもとでの説明である。

不活化ワクチンで汚染されることはない。しかもその安全性は予め確認されて許可される。ただワクチンによって発症を食い止められると、ウイルスそのものはそれを迂回する形で変異しながら残ってしまう。その変異の過程でヒトに移り易い型になる可能性があるとするのが反対論者の言い分の骨子だ。ただ現況を度外視して可能性を論じていたら、どなたかの国会答弁にもあるように一歩も前に進めない。

一方で政府もこれら学者達も大きな自己矛盾を抱えながらも、ウイルスに汚染された卵肉の安全性については宣伝これ努めている。より具体的に云うと、いま日本やアジアで流行しているのはH5N1で、これに使おうとしているワクチンはH5N2、本来は同じ型のワクチンが望ましいが、違う型を使うことで野外ウイルスとワクチンを区別出来る利点もある(DIVA)。もともと不活化ワクチンそのものの汚染などないことを、つまりそのものの安全性については、消費者に理解して貰うことが必要で、むしろ今回、わざとゴチャマゼにして既成の理解までも無にしたのは学者達である。

具体的に国の方針としてH5N2のワクチンを用意したのなら、交差免疫の考え方、更にはDIVAの技術など、その実際の使い方まで明らかにしないことには、国民からすれば、また役人共のこと、こうやりましたという無責任な事実だけを並べおって、と不信感を増幅するだけである。 仮にこれから一カ月発症がないと云うことは、その間に隠れた事実が有るという事でもある。中小の養鶏場の退避、廃業は続いている。もともと外部的に摘発など出来るものではない。ほとんどの原因は経営難なのだから。あえて例を出すまでもなく、餌代も払えぬ養鶏は餌を止められ兼ねない。廃鶏業者も不眠不休だが、うっかり廃鶏を出すとたちまち注進される。わが家も先日警官の訪問を受けたと息子達が苦笑いしていた。こうしているうちにも、あちこち空の鶏舎が目立ち始めた。敗戦前夜、米軍が撒いたビラが思い出される。餌を断たれた鶏は鶏舎内に放置され「5月、6月、骨の国。7月、8月、灰の国」となるかも。
2004/03/07 I.S