鳥インフルエンザ問題の今後(220)



鶏の研究誌9月号で、大槻教授が青海湖タイプの鳥インフルエンザについて記述されている。我々現場でも、このタイプの存在を知らされた時、渡り鳥の南下を目前にして、文字通り戦慄を覚えたものである。それはまさに大槻教授の云われるような内容であった。しかし今年宮崎、岡山で実際にやられてみると、いささか違っていたようだ。

(1)青海湖タイプのウイルスは鶏の体内でシフトされ水鳥にも病原性を持つようになり、、哺乳動物を含めより広い宿主域を持つのではないかと恐れられたが、実際にはアイガモに対しても強毒性を示さなかったし、平飼い三鶏舎の中央が全滅に近くなっても両側は発症を免れて居たほど感染速度が遅かった。そのくせ一旦発症すれば劇症だということは、鶏が元だと云われながら、普通にはあまり鶏に馴染んでいるとは言えない型だと思える事だ。

(2)大槻教授は、鶏に対し強毒で、マウスに対してもこれまでにない毒性を示すこのウイルスが拡がらなかったのは早期発見とその後の処置が万全だったからだと云われるが、この説明は明らかにおかしい。これに先立ち野生のクマタカが感染死していたし、一鶏舎が全滅に近い状態で全く飛び火しないなどとはニューカッスルの場合など考えられなかった。実態はやはりかなり感染が遅いのである。現場にとって感染が遅いという事は、むしろ早期の発見がそれだけ重要だということになる。

哺乳動物であるマウスへの毒性の問題は青海湖タイプが初めてではない。河岡教授は1997年のH5N1香港型が、ウイルス1〜2個でマウスを殺すと紹介しているし、それが直ちに人間に対して危険だとするなら、今年の宮崎、岡山でも管理者はただでは済まなかった筈である。我々現場は決してそれを軽視しているわけではなく、あくまで危険の第一線にいる覚悟であるが、それだけに不確かな風評と、ウイルス学にあるまじき不確かな効果を吹聴することはやめて貰いたいものである。

私達が現場から指導者達の言動にやたら異を唱えるのは本意ではない。しかし茨城の事例がろくに検証もされないまま泣き寝入りのかたちで放って置かれて居るのは納得出来ない。彼らの言い分では無毒の茨城型は確実に強毒変異している筈である。100人が100人、あのようなことで人為的に茨城株が絶滅できたと考えるものは居ない。無くなったとすれば自然の消滅である。そんなものがなんで強毒変異なのか。その時彼らの脳裏には過去のペンシルバニアの事例しかなかった。否、すべてを承知のうえでそれを恐怖材料としただけだとしか思えない。なぜならここ数年韓国で常在している無毒化したに近いH9N2にしても1999年には香港で二人の子供で問題になったり、鶏に対してもかなりの毒性をしめしていた系統があった。巷間無数に存在するインフルエンザ弱毒ウイルスをすべて強毒変異もしくは強毒ウイルスの潜在流行を促すものとして家禽上で見つけ次第殺すという非現実的なやりかたを我が国一国だけでやったとして一体どれ程の効果があるというのか、いたずらに我が国の産業を疲弊させるだけとしか思えない。 

われわれはこの一事を以てしても、彼ら指導者が如何に業界に関しては無責任かを知ったのである。今回の雑誌の記事も、我が国での実際の発生に関して得られた貴重な情報が何一つ生かされて居ず、それ以前の戦々恐々としていた気持ちに、その型のウイルスとは直接関係のない東南アジアの人での感染例を並べる等、新しい知見はまるでないばかりか、むしろ風評を煽り立てるような記事になっていると感じて居る。

H 19 8 16. I,SHINOHARA.