鳥インフルエンザ問題の今後(219)



養鶏場にとって鶏の感染以上に気を使わなくてはならないのは、それが鳥の病気であろうがなかろうが、従業員の健康への影響である。だから我々としたら鶏の症状と同じくらい、人間の臨床についても関心を持ち続けて居る。

2005年12月19日、NHKクローズアップ現代で鳥インフルエンザ問題を取り上げた際、感染研の田代部長は、H5N1の症例について「これは最早通常のインフルエンザ感染症ではない、人類が初めて遭遇した全く新しい病気だ」と解説した。感染すると肺のサイトカインが10倍にも増え、それによって肺のみならず全身の臓器が破壊されて多臓器不全で患者はやられてしまう。これ以前にもテレビで報じられた「まるでエボラ出血熱のようだ」と標本を見て驚いて居る感染研での一カット。更にはコッホ現象のように肺の組織が脱落して空洞化した写真を示すベトナム熱帯病病院の医師。実際の治療には免疫抑制剤としてのステロイドの大量投与が行われて居るという現地の医師の話。また一様に特異免疫がないとされる中で、体力や抵抗力のない老人よりも、反って若い人達に犠牲者が多いなど、話を聞く大半の研究者はそう理解しているようだ。

ただ、だからといって体内の免疫系をことごとく封じてしまったら、どんな弱い相手でも太刀打ち出来なくなる。ステロイドの大量療法の後での真菌症であったりエイズの場合のカリニ肺炎であったりする。先日も場員が蜂に刺された。昔は効いても効かなくてもアンモニア水を塗るくらいで済ませたが、今では2度刺されるとアナフィラキシーショックを起こすと云われて病院にかつぎ込む。そこでは直ぐステロイドが注射される。そのステロイドが局所の炎症を防ぎ、同時に免疫系の異常昂進を防ぐのだという。だがステロイドそのものが時にはアナフィラキシーショックの原因薬物にもなるという。だから病院側は強心剤や血圧上昇剤の用意もするのだという。いやはや虫さされ程度に大変な話で、薬の作用如何では毒にも薬にもなるどころか命取りにもなりかねない。別の場員がショックで倒れ、救急車で病院に運び込んだらCPKが10000IU/Lもあり急性の横紋筋融解症だという。メタボシンドロームばやりで抗コレステロール薬と抗中性脂肪薬を飲み過ぎたらしい。危ない危ない、やたら医者にかかると殺されるぞと指導医に一喝される。

人間のH5N1感染も実際には分母が増えて居ると思うが、公式発表では50%の死亡率のままで一向に馴れて来ない。パンデミックが起こって通常のインフルエンザの形になれば1%以下の死亡率に落ち着くだろうと専門医はいう。聞き方によってはそうなったほうがワクチンなどの対策がたてやすい気さえする。

素人考えに過ぎぬが地球環境も人間のそれも、薬とその副作用も、ウイルスと免疫系との関係も、すべて或るバランスで保たれて居る気がする。不自然に免疫系を破壊したマウスを使った実験など、いくら一流学者の実験でも、そのまま信じる気にはなれない。

新潟地方は度重なる大地震で被災地の気の毒な状況には言葉もない。ほとんど同じ所が同じような規模の地震にやられる。地震により溜まったエネルギーが放散すれば当分は大丈夫とする学説に因った学者にとっては想定外かも知れぬが、天災も疫病も想定外では済まされぬ。効いても効かなくてもタミフルを備蓄し、従来型インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンも打たせて、この冬に備えさせなくてはならない。

H 19 7 18. I,SHINOHARA.