鳥インフルエンザ問題の今後(218)



昨11日には、故 所 秀雄さんをしのぶ会がシェラトン都ホテル東京で行われたが、ホテルの名前自体も都ホテルからラディソン都、シェラトン都と目まぐるしく替わって行く。そんな中で所さんの主張された「抗生から共生へ」は、日本では一向に実現しない。

鳥インフルエンザウイルスH5N1も、これだけ拡がれば宿主側も自然に、或いはワクチンなどによって抗体を持って来るし、逆に馴れることによってサイトカインの反発も少なくなって受け入れ態勢を取るようになり弱毒化の一途をたどるであろう事は当然であり、これこそが本来目指すところの共生への道の筈である。ところが相も変わらぬ我が国の「清浄国論」のもとでは、どこまでも絶滅排除の方針が貫かれるから、そうなってからが寧ろ業界の脅威となる。強毒発症の場合にくらべて、無毒に近い茨城型のほうが量的被害は格段に多くなる。農水省は公式には認めて居ないにしても茨城型のようなH5弱毒株の存在は動衛研の資料でも人間の感染研の福井のデモンストレーションによっても数系統見つかって居る。それ以前に茨城株(通称)が人為的に絶滅出来たと、本当に考えて居る専門家は皆無である。

農水問題に限らず、国の方針が定まっているものを、いくら専門家集団に諮問しても、それに沿った答えしか出ては来ない。喜田委員長の3点セット発言でさえも、その中身は輸入相手国に対する制約であり本来の意味合いでは無かったように、会議そのものが、被害地そっちのけで、いかにして「清浄国論」を守るかに重点を置かれて居た。

その点、立場の違う感染研では、そのHPでOIE推奨のプライマーでは検出出来ない茨城株を含めて、あらゆるH5株を検出出来るとしている。さきの宮崎、岡山の発症事例を受けて、それを使ったらどうかというような質問が出たらしいが、農水の星野さんはやんわりと質問をそらした感じだ。鳥取大の伊藤チームはこれまでの野鳥の糞を調べるやりかたが一番良いのだというし、喜田さんは喜田さんで我が国の検出技術は世界的に優れているんだと豪語する。聞いて居る我々は、ああ皆清浄国論を守るために動かされて居るなと嫌でも感じてしまう。聞き方によってはPCRでやってくれなどという業界団体の希望通りにやれば、いくらでも見つけられるんだぞという喜田さんの恫喝に聞こえぬこともない。

宮崎、岡山のいずれの事例も発症に伴う第一次の診断には人体用の簡易キットが使われたという。A型、B型しか分からぬが三本線や三角マークで判別するそれらの製品がこの業界でもけっこう売れて居る話を聞く。ちょっと皮肉な感じである。

はっきり数値目標と云う訳ではないが、ワクチンを許可する要件としての鶏の犠牲について全国で何千万羽くらいは仕方がないとオランダなどの事例に準えて囁かれることが農水や専門家の話の中に間々あったことは確かである。そして茨城事例までは、その数は感染死を中心に考えられていたが、無症状鶏の摘発まで入れるとなれば、農家側の有効な対策は皆無に近い。

ウイルスの弱毒化は、その宿主にとって望ましい方向であり遂には全く無毒化する。鶏にとってのその傾向を、人間には脅威だと説明して、鶏の虐殺を続けることは全く無意味であり、もともとウイルスの絶滅など不可能な証明でもある。これまでもそうであったようにインフルエンザの新しいウイルス型によるパンデミックはいずれ起こることは間違いないだろう。そのウイルスの絶滅を図る以前に、ウイルスに付け入れられる劣悪な人間環境を改善し、所 先生の云われた「抗生よりも共生」をこそ心掛けるべきである。

H 19 6 12. I,SHINOHARA.