鳥インフルエンザ問題の今後(216)



茨城鳥インフルエンザ裁判の有罪判決に被告人側が「全く納得していない」のは当然である。茨城H5N2が全く鶏に馴致した、我々現場が1996年の発症を受けての家衛試の調査結果から、嫌でも既に巷間にあるとしていた未知のウイルスのワンノブゼムであることはとうに察していて、その遺伝子解明によって、それがメキシコ周辺の馴致株だったと聞けば、尚更得心した訳でもあった。従ってこんなものを摘発淘汰していたら日本中の鶏が居なくなるとして当初から殺処分に反対してきたのはこのHPに見る通りである。

日本の学会は交差免疫や競合を認めて来なかったと度々云ったが、その現象自体を知らないわけでは無論ない。それどころか小委員会の学者達は必要以上に弱毒株に隠れたサイレントエピデミックや、強毒株のリアソートの可能性を強調して業界を脅し続けて来たのである。そして茨城株はもう馴化していて、大槻教授の実験株のように野生にあって云わば未分化の株や1983年当時のペンシルバニア株とは、明らかに違うのに、それ自体の強毒変異のみを一方的、かつ確定的に主張して殺処分を正当化して来たのである。

そんな中で茨城鳥フル裁判は、不当な殺処分を継続せざるを得なくなった小委員会が苦し紛れに打ち出した、条例による<疑似>もしくは<見なし疑似患畜>を装うべく打ち出した《闇ワク接種疑惑》に沿って捜査され、その証拠のないまま別件ともいえる形での長期の拘留のすえ起こされた、大槻教授もしくは週間現代が云うところの「闇ワク疑惑事件」そのものであり、これで有罪にされたらたまったものではない筈だ。

土台、病気の症状もない鶏を、焼け跡としての抗体調査だけで病気として届け出るべきだなどとは無茶苦茶な話である。業界とすれば進んだ設備と人材を有する愛鶏園といえども、症状も無い鶏をそれと診断出来る訳がない。また別の君島農場の例も含め、若鶏だから検査に引っ掛からないとする理由は焼け跡調査でいえば、そのボヤの起きた時期との関係しかない。それにもともとの通達では検体提出は1農場10羽で事足りた筈だ。鳥に限らずインフルエンザは、ウイルスの広い環境汚染がもたらす感染症で有る筈で、症状があればそこから、さもなくば有る程度広い範囲のおとり鶏などを調べるのが普通のサーベイランスである。寄生虫や細菌の感染ではあるまいに鶏舎毎の検体を提出させようとすること自体が異常である。

とにかく茨城県の対応自体が異常に感じられた。裁判の結果こそ有罪だったが、我々は今でも彼らは獣医師の面汚しなどではなく、鶏病研究面でも、現場の良識であると思って居る。実験室内と違って、野外ではさまざまな微生物が互いに影響しあって居る。発症が有った場合、その中から原因菌やウイルスを特定するのは容易ではなく、多くは最初のスクリーニングに引っ掛かったものが原因とされる。だから未知の弱毒ウイルスなどが見つかることはほとんどなく、よほど典型的な症状であっても、類症鑑別は難しい。出ては困る病気の場合は尚更である。外国の例を見てもAI流行の間隙をぬってNDが大流行するのも、あながち偶然ではなさそうだ。

野外のウイルスは《とき》様の云われるように、ホスト側もウイルスも干渉しあって次第に馴致していく。いまをときめくH5N1だって、多くの株が、そして家禽もそうなる。それが喜田さんのいうウイルスと仲良くすることだが御用学者の立場の彼は、ひたすら弱毒株が在るゆえのH5N1潜在流行の拡がりを懸念して見せ、そのくせ交差免疫は否定する。矛盾である。

H 19 4 1. I,SHINOHARA.