鳥インフルエンザ問題の今後(212)



明3月22日、業者団体による週間現代の記事への抗議集会が開かれるそうである。また昨日発売のサンデー毎日では「権威の問題発言」としてその事を取り上げ、コメントを求められた方達は、一様に大槻教授の今回の発言を意外視し激怒さえしている。

しかし何度も指摘して来た通り、週間現代での大槻発言は浅田農産事件以来の彼の持論の決定版でもある。それを何故産業側がこれまで放置して来たかがむしろ問題と言える。それまでの慣習、未経験による狼狽、さまざまな不手際も重なって、追い詰められた形で不幸な結末を迎えた浅田農産に対しても、我々同業者の立場では当初から同情を禁じ得ないとして来たが、大槻教授の発言は総て官側の立場からのみのそれであった。それは茨城事例での<闇ワク疑惑>についても同様で、彼の脳裏にあるものは、まさしく記事通り<闇ワク事件>そのものであると思われる。彼は野生に馴染まず鶏に馴化した弱毒株は人為的以外には在り得ないとこれまでも強固に主張して来て居る。

我が国ではいざ知らず、中米では2002年当時のガルシアさんの言葉にもある通り、産卵低下後の経過を観察されたり強毒発症するなかで、最終的にワクチンで押さえた株であり、その間自然に鶏に馴致していてむしろ当然の株である。H5N2そのものがペンシルバニアで1983年に強毒発症して以来20年以上経ち、その馴致株が世界中至るところにあっても何ら不思議ではない。

我が国の養鶏でも産卵低下を伴う軽い風邪症状などは日常の茶飯事であり、それをいちいち病性鑑定に廻しても多くが複合的感染などで病原を特定して対策を立てられるケースは稀で、ほとんどがそのまま淘汰される。したがって不顕性の鳥インフルエンザを検出すること自体不可能に近く、それらの一つが茨城の場合たまたま見つかったに過ぎない。それを人為的なワクチン株であるとし<違法なワクチンを打った鶏>と見なして、事実上焼け跡の抗体だけで法の条文に照らして摘発淘汰の方針を打ち出したのが当時の小委員会であった。

今や世界の関心は東南アジア中心に発生を続ける強毒H5N1株に向けられているが、相変わらず弱毒が強毒に変異することだけを一方的に懸念しているのは寧ろ日本だけで、アメリカ各州など、そのH5N1でさえ「あれは弱毒株だった」と切って捨てている状態だ。今回、クマタカがH5N1に感染死していたとの報道があったが、不自然といえば茨城株以上に宮崎、岡山での点状発生は不自然である。ただ今回はいくらなんでもワクチンのせいには出来ない。大本が不自然な清浄国論に立って、それに抵触する事実を皆伏せてしまえば、総てがウイルス学的説明がつかなくなる。事実、感染経路一つ解明出来て居ない。

最近でこそ国も正面切ってあまり言わなくなったが、その《清浄国論》は前任の栗本課長時代は、それが金科玉条とされワクチン論はすべて封殺、ワクチンは有害危険視されたままで、未だに業界の一部までがそれに惑わされて居る状態だ。いわんや世界中で実際研究され用いられている生ワクチンは、すべてベクターワクチンであるにもかかわらず、我が国では今回のサンデー毎日の記事を含めて、単に毒性を弱めただけの増殖可能な生きたウイルスを用いて居ると誤解されて居て、消費者に限らず業界までがこの不当な解説に毒されたままである。

そしてここに来て検出技術が飛躍的に進歩したことにより、見つかっても当面は危険の無い株まで淘汰することは効果対費用の面からも適当でなく、見つけて問題にする場合はワクチンで対応することが、言われるように世界の趨勢でもある。

H 19 3 21. I,SHINOHARA.