鳥インフルエンザ問題の今後(209)



大槻教授が主張するのと逆の意味で我々現場も、いつまたひょんなことで表面化するかも知れない茨城H5N2株は《闇ワク》なんかではないとの確信を持った結論付けが必要である。

我々からすれば小委員会が、増殖を繰り返して居るにもかかわらず、その元は中米株の不完全なワクチンであるとして苦し紛れに発表した不確かな情報をもとに、茨城県警が事実上闇ワク疑惑解明の為におこなった捜査でもその事実は無く、別件の届け出違反や検体差し替えで立件、求刑まで来たものの、闇ワクについては疑わしきは罰せずどころか全く事実がなかったにも係わらず、あたかもそれ自体が有罪であったかのような印象付けがあるとすれば許されない話である。繰り返すように小委員会が闇ワク疑惑を言い出した時点で、もう既にそのウイルスの実態は<ワクチン>などではなく立派な野外株だったことは論ずるまでもない。

しかも発見されてからの歴史も古く、すっかり環境に馴致して、鶏に対してもほとんど症状すら見せなくなった株だとすれば、はじめから殺処分の対象とはなり難い型であった筈だ。だからあえてこれを殺そうとすれば予防法の条文にある「禁止されたワクチン」を持ち出すよりなかったのである。そのような見え透いた罠に業界もろとも引っ掛かってしまったとするのが、当時の私の周辺の見方だった。そんな、環境にも鶏にも馴致した株が殺処分で絶滅される筈も無ければ、茨城県に止まる筈も無いとするのが当初からのわれわれの見方であると同時に、公式発表はどうあれ小委員会の大かたのメンバーもそう捉えて居て当然だと考えて居た。

一方、外国ではわんさと見つかる野外弱毒株が、こともあろうに世界に冠たる検出技術を持つ我が国では一向に見つからない。その批判は当然のごとくサーベイランスの先頭に立つ大槻教授にも向けられる。だから彼はそのジレンマに焦って居たと思われて当然であるし、そのはけ口が名にし負う<週間現代>だったことは、幾分なりと同情する余地はある。しかしながら、それを差し引いても、そのタイトルの「鳥インフルエンザの闇ワクチン蔓延を警告する」というのは酷すぎる。タイトルだけなら責任逃れも出来ようが中身もその通りなのだ。

これに従えば、今後、当然のように見つかるかもしれない<茨城株>は、公的情報では絶滅させられたことになっているから、すべて蔓延した闇ワクチン(新たに接種された闇ワクチン)だということになる。こんなに鶏飼いを小馬鹿にした話はない。しかも見つかれば殺処分以外の選択肢はない。「養鶏場は悪質で金儲けの事しか考えない、その一部は政治献金で政治家を動かして危険で有毒なワクチンを執拗なまでに要求し、国民の命の安全を全く考慮しない」と、一流とされる研究者が、さも国民の命の側に立つ振りをした偽善者振りを発揮したうえで鶏にとってのジェノサイドが再開されれば、日本中の鶏が居なくなる事態になっても、国民は騙されたままだろう。

しかしこれでこの学者の正体が知れた、と単純に思うのは早い。世界の動向、清浄国論のもとでさまざま生じる矛盾に耐え切れなくなったとき、世界に冠たる検出技術は初めて動員され、現行のシステムで先ず挙行されるのは鶏の大虐殺であることは間違いない。大槻発言はそのことの正当性をでっちあげようとする國の代弁であるとも取れるのである。しかし「清浄国論」は善くも悪くもさまざまな立場、利害が絡み合う一筋縄では行かぬ大人の理論であり単純な我々鶏飼いの使いこなせる技ではもともと無いことは確かなようだ。

H 19 2 26. I,SHINOHARA.