鳥インフルエンザ問題の今後(208)



実はここで週刊誌の大槻発言を執拗に問題視している形だが、その発言それ自体よりもその背後で意味するものがあまりにも難題である。《とき》様でさえ、そこまで大衆のリテラシーが劣化しているとは考えられぬと云われたが、その行政に携わっている方々はもとより業界までが、あからさまな学者のウソを見抜けていなかった事実からみると、その読み取り能力というか判断力の劣化は憂うべき段階であると思わざるを得ない。

ありふれた産卵低下の原因追及に端を発した茨城事例は、水海道の数件の摘発で事は収まるかに見え、喜田委員長もテレビでそうコメントした。だがそこで陽性血清が得られたとなると、もう見つけるのは容易い。イセの茨城農場から埼玉の農場に移送された中古鶏からPCRを併用する埼玉県の検査で陽性鶏が発見されるに及んで、それまで安全とされていたウインドウレス鶏舎への感染が確認され、急遽ウインドウレスに関しては殺処分を行わない決定がなされ、これがまた鶏界に「差別だ」との議論を呼んで核心から視点がずれてしまった。ここで困り果てた小委員会がはじめて打ち出したのが「闇ワク疑惑」だった。NHKも呼応して、クローズアップ現代で見るからにおかしな映像を流した。

それにしてもなんら確証もなく、現実にどんどん増殖するウイルスを目の前にして、疑惑の中国大陸を除外した消去法とやらで、グヮテマラ発の「闇ワク」だと海外に向けてまで発信した当局と小委員会の行動は、一時は誰の眼にも、彼らの<自爆行為>と映ったに相違ない。私自身もその場で直ぐ抗議し農水省に質問状を送っている。

こうして、暖かくなれば自然に姿を消してしまう野外の、実際は取るに足らないウイルスに対す茨城県による、これも執拗な探査が行われ、600万羽におよぶ事実上の大殺戮となってしまった。しかしこれが茨城半國の<お取り(鳥)つぶし>で済んだのも、一応の人間側の良識が働いた結果であると思う。実際のウイルスの世界ではそうはいかない。

問題はワクチンとは似ても似つかぬ感染力を持つ茨城株を、むりやり「闇ワクチン」だと同定?した結果、茨城から飛び出さなかったとされたウイルスも、本来は全く関係のない裁判の有罪求刑も、<闇ワク>だとしたらさもありなんと変に大衆を納得させてしまう結果になろうとしていることである。茨城株は、特異的な症状も無くWHO推奨の診断マニュアルによるプライマーにも反応しないとされる。つまりは大方の野外無毒株同様通常は発見されることはないのだ。こともあろうにそれが日本では大発生と報道されて、サーベイランスでもとりあえずは主たるターゲットにされてしまった。この株に対し具体的な発見能力を持つのは日本の研究機関だけである。それが今後ふとしたことで鶏などから発見されたらどうなるかを考えておくのは國やそれを取り巻く学者達にとって当然である。殺処分しか選択肢が無いとすれば、それを大衆にどう説明するかである。ろくに症状も出さない茨城株が600万羽の殺処分で絶滅したとか、遮断がうまくいって茨城半國から出なくて済んだ、とかの公的情報を<闇ワク>説と共にそのまま信じ込んでいる関係者、業界人が多いことはリテラシー低下の懸念は一般大衆に対してだけではないということだ。

一方で、いまや茨城株は<清浄国論>に立ちはだかる我が国独自の難敵であると國が意識しているであろうことは、感染研のPCR法に関するHPの冒頭の記述部分を見てもわかる。EUの新しい指令でも、これまで対象外とされていた弱毒株に対しても発見されれば処置をしないわけにはいかなくなっているが、当然氷山の一角であるそれらを殺処分の対象にはしていないし、それはもともと不可能なことだ。当然DIVA技術を取り入れたワクチネーションを認める以外にない。ところが日本はそのどちらも認めていないのだから、繰り返すように実際に今後茨城株が養鶏場で発見されたら殺処分以外に方法はない。

先の茨城事例において、それが高病原性と我が国独自で規定するH5亜型であっても、全く無症状の鶏を殺処分するには慎重を期さねばならないが、そのよりどころの一つが違法ワクチン接種の場合を定めた条文だった訳である。國側があくまで<闇ワク>にこだわり、それを既成事実化したい裏には、実際は絶滅されてはいない茨城株が変異をしてでも再発見された場合は<殺す>以外に選択肢が残されていない上は、その大義名分が「こいつは闇ワク株だ。茨城で600万羽を殺した恐ろしい相手。その為に有罪になった者も居る」という筋書きがある(と想像する)。

その先棒かつぎが今回の大槻教授であり、大方を見越しての「闇ワクチン蔓延論」だ。
今だからでなく、茨城事例前から法律で禁じられたワクチンを使うなどという発想はまともな鶏飼いにはない。取引先にも社会的信用の面からも命取りになるからで、それが今となっては尚更である。だから大槻さんの云う「闇ワクチン」とはこれから接種される恐れの有るものを指すのではなく(そんなものが居るはずが無い)、あくまで茨城株の再発を予想しての大衆を洗脳せんが為の発言に等しい。だから悪質なのだ。

しかしいまや(というより当初から)茨城株はワクチンとは似ても似つかぬ、自分で宿主に取り付いて増え続ける野外株の一つである。野外に永く隠れて存在し続けて居るからこそ野鳥と共通性のある鶏にも馴致していると考えられる。そしてそれは発症せぬ限り、前述のWHO推奨の鳥インフルエンザウイルス実験室診断マニュアルに採用されるプライマーにも反応しない(感染研)、見方によって取るに足らない野外株であると言えるのである。日本は《清浄国論》に立ち、見つければ殺処分以外の手段は自ら封じて居る。茨城株の<茨城半國>からの<移封>は許さぬとした國の立場からは見つかったら一大事である。ただそうなった場合を慮って、ここにきて尚更<闇ワク>を大衆の脳裏に焼き付けて置きたいのであろう。

では実際にはどうなのか。1996年のわずか2例の発症でも抗血清を得ての翌年の全国調査ではあれだけの拡がりを見せて居る。國が本当に世界に冠たる研究機関を使って茨城株検出に努めればどうなるかくらいは察しがつく。その時はすべて殺処分するしか選択肢がない現在では國の出方を見守るしか無い。そんな馬鹿なことはすまいと思っても、いざとなれば國は日本中の鶏を空っぽにすることだって法律上は出来るのだから。

H 19 2 25. I,SHINOHARA.
No.25888-25889