鳥インフルエンザ問題の今後(198)



茨城事例は、こうやって実際の強毒型のアウトブレークが出て見ると、改めて全く別の問題であると思われるのだが、いまいましい<偽ワク宣伝> は、当時、対策、見通しなどで窮地に追い込まれた官側による逆転のホームランだったとする思いは今も変わらない。大手の養鶏場ならなおのこと、自分の命より大切な鶏を通しての《信用》を台なしにするようないいかげんなワクチンを打つ訳がなく、《とき》様が云われるとおり馴致株に間違いないと多くの仲間が思っている。大槻教授をメキシコに派遣したのもワクチンを疑ってのことらしいが、あんな勝手に大増殖するようなものにワクチンの嫌疑をかけるなんて相手を馬鹿にするにも程があると我々でさえ憤慨した。もともと歴史の古い中米株だとすれば、それなりの時間をかけて浸透しているものだろうし、動研の資料では他にもH5関連の不顕性株がいくつか環境中に転がって居そうだから、そのどれが鶏に取り付いても似たような形になると思う。比較論からすればそんなものを問題にしていたら100%の安全を要求するのと同じで切りが無くなって、それらをくまなく拾い上げるRT−PCR法を使えば、清浄国論なんてすっ飛んで仕舞う。それ以上に現場は大混乱するだろう。

「現れたものだけでも現場で早期に摘発根絶する事で、自然に耐性、馴致個体との選別が出来て(ウイルスと仲良くなって人畜ともに繁栄していく)」ことにつながる《とき》様のおっしゃりかたは本来の喜田発言そのままであって、そんな同じ喜田教授が小委員会にいるとあの発言になり、ワクチン反対のお立ち場で、ご自分でワクチンを作りながら、あえてこれは予防的には使わせないなどと見え透いた自己弁護をなさる。まことに解せない。さてその《とき》様の云われる現場での「早期迅速な顕性個体の淘汰根絶」であるが、困ったことに最近は初期の臨床症状の情報がまるで流れて来なくなった。もともと全身に抗原が広がり、全身症状で100%の斃死というのでは敗血症死で文字通り<後の祭り>に過ぎず検査試験の結果なんて早期発見の為の現場の役には全く立たない。欲しいのはあくまで初発の初期症状に関する情報である。

「鶏の病気には出刃包丁」とされていたのは薬事法も何なかったろう大正時代からで、治しても採算がとれないからだ。(今はいくら鶏飼いでも、病鶏をさばいて食べたりすることは有りません)。しかし大ざっぱでも類症鑑別だけは現場で出来ないと困る。鶏病に経験豊富な獣医が仮に居たとしても、直接の管理者が極く初期の状態を掴んで居なければ病性鑑定の結果を求めるだけに終わる。ここで主張したいのは重大な<アウトブレーク>を防ぐことと、<隠蔽>とは全く意味が違うということだ。初発の一羽を発見して即刻処理することこそアウトブレークを防ぐために鶏飼いに課せられた責務なので、水平感染をおこしてウイルス濃度が上がり、敗血症や脳症でバタバタ死ぬようになってから処理するのは隠蔽行為として糾弾されるだろうし、その段階で発見して届け出ても法令遵守には違いないが鶏飼いの立場からは事実上の手遅れ(集団遺伝学による育種では同一ロットでの斉一性は高い)であることには変わりない。(尤も、不特定接触の多い平飼いでは無理)  伝統的な<阿呆の鶏飼い>には、あまり威張れるような革新技術はない。有るのは生真面目な観察だけである。百聞は一見に如かず、一見は百見に及ばず、繰り返しの観察がなくてはいつもとの違いを発見出来ず大事を見逃してしまう。  それは悪く考えれば一羽、一羽と淘汰して行くうちに暖かくなって呼吸器病も消えてしまい、その中にはAIもいたかもということは過去にあったかも知れないし、これが近代経営のウインドウレスだったら繰り上げ淘汰であっと言う間に鶏舎が空になっていたことも。しかし基本は基本である。

H 19 2 9. I,SHINOHARA.