鳥インフルエンザ問題の今後(193)



鶏飼いである以上、自分がやられたときはどうするかということは片時も脳裏を離れたことがない。たった14人の従業員でも皆それで食って居るのだから普段から覚悟は決めさせている。わずかでも定められた退職金に失業保険。それに効いても効かなくても医者に頼んで2クール程度のタミフルの備蓄。その代わり来客も多く、野鳥同様対策はお手上げに近い。通用するかどうか分からぬが家保と連絡をとりながら独自対策を立てるよりない。幸い5キロメートルの範囲だと巻き添えを食わせる養鶏場はないから幾分は気が楽なところもある。

鳥インフルエンザの症状は、劇症の場合はどうも鶏も人間の場合と似て居る。特に攻撃試験の結果が激烈過ぎる。昔のA/Japan/24の記録をみても同じである。《とき》様の云われるように検査手法に問題がなければ、ある場合は人間と同じようにウイルス感染症とはとても言えなくて、素人的にも云い方は適当でないだろうがサイトカインストームシンドロームとか多臓器不全症候群とかいう類いに見えて来る。攻撃試験鶏に人間と同じようにステロイドの大量投与でもしてみたら予後はどうなるだろうと思ったりする。人の場合も、送られて来た標本を見て、「まるでエボラ出血熱だ」と驚いた感染研の岡部センター長のコメントが最初で、最近の田代部長の「あれはインフルエンザウイルス感染症とはとても言えない。何か別の名前をつけるべき」などという話は末端にはなかなか伝わらないらしい。

SARSの場合も、良し悪しは別にして免疫を押さえるためのステロイドが大量に使われて奇異に思われたがやはり通常の感染症の形では捉えられず、献身的な医師が犠牲になったりスーパーキャリアが現れたりで恐れられたのだろう。しかし肺の写真からはコッホ現象に似た形(組織の脱落)がみられたというし、台湾のデング熱も何故二度目に罹ると、そのコッホ現象やアナフィラキシーショックのようにひどくなるのか分からないらしい。我々素人が混乱するのも無理はない。で、しばしば専門家に聞くのだが、専門家というのは割りと木を見て森を見ずの類いが多いのは何故だろうか。鶏の場合も森を見るなら現場の人間の方が上だと感じることが多い。

今年100歳になる家内の母親は村医者の娘だったから大正8〜9年頃の村でのスペイン風邪の流行をよく覚えて居る。村で10数人の死者が出て、村外から応援の医者が来たが、診察の帰りには必ずお茶を飲んで[ここんちは大丈夫だい」と平気だったと云う。事実母の家族は全く無事だった。かとおもえば「ぶっ叩いても死なねえようなだれそれがあっさり参ったりして」というような具合だったらしい。それでも村で0、何パーセント、世界では4000万人近くが死んだという。だがそれはインフルエンザ感染症のパンデミックになってからの話だ。今のところは国内だけでもインフルエンザが絡んだかたちの肺炎患者の死亡が年間推定15000人、東南アジアのトリフル多臓器不全症死者の100倍にも達する。しかしインフルエンザ自体は太古から流行を繰り返すたかが鳥由来の流行感冒、エイズのように人類の繁殖という根幹を揺るがしかねない重大な病気とは根本的に違う。

話を鶏に戻せば、ニューカッスル病のように放って置けば軒並み全滅する形ではなく、一カ所やられても、少し条件の違う隣の鶏舎の鶏は平気という人間のインフルエンザと同じだという気もする。何しろみんな殺して仕舞うからその辺はわからないが、飛沫感染(接触感染)だけならその可能性が大である。もっともそんなことを試みて引っ括られたら元も子もない(笑)。

H 19 2 4. I,SHINOHARA.