鳥インフルエンザ問題の今後(176)



診断用抗原が合致すれば、高い数値での陽性率、更にHA亜型を特異的に検出可能なプライマーを作成して臨んだRT−PCR法によって同定された茨城株が、明らかにブースター的短期間での急激な抗体の上昇を見たのは事実だろうから、<とき>様の云われるように、その鶏群はウイルスに対して初体験ではなさそうであることは充分うかがえる。ただそれが、同一ウイルスによるブースター効果なのか、他の類似野外株との交差免疫抗体なのかは実際は学説だけでは分からないだろう。

ただ、一応の説明としては、事前に何らかのウイルスとの接触があり、今回改めて茨城株の感染があったとする説がわれわれ素人には一番説得力がありそうだ。そしてその原因を、有るものも無いものとして扱う、国の《清浄国論》のもとでは、ブラックマーケット欠陥ワクチン疑惑に始まって、その後も直売農家の無知、悪徳獣医師の介在などによる遮断の失敗などによって人為的に拡げてしまったとする、地元家保の先日の説明にあるような見方が、未だに広く養鶏界を支配しているようである。ここで、もし国の絶対的な方針である《清浄国論》がなければ、中米株だろうと中国株であろうと人の往来、密輸動物の搬入、物資の行き来に伴っていくらでも存在しうることは素人でも察しがつくことである。

度々述べたが、今、鶏を飼う上で、身近で始末のつかぬやっかいな問題として、鶏の外部寄生虫の問題がある。これが容器や生産物や鶏体に付いて移動する。これらは当然のことながら菌やウイルスを機械的に伝播するモニター的存在である。同様にいくらサルモネラ中毒を養鶏場段階で防いでも、それがネズミ、犬猫など環境中に在る限り、蝿、黒ゴキブリなどによって伝播されるから、調理中の接触を防ぐよりない。サルモネラ中毒の発生が、一般家庭にはほとんど無いことがその証拠である。その外部寄生虫は、厳重な消毒も素通りする。幾ら鶏の入れ替え時に、消毒と殺虫をしても、外部に通ずるベルトだけでなく、これからは新しい導入雛にも必ず付いて来て居ると思わなければならぬほど、それは猖獗を極めて居る。繰り返すがこれらはウイルスの機械的伝播者にもなり得る。昔の平飼い養鶏ではワクモ退治は宿り木の裏側に硫酸ニコチンを塗り、下に麦藁を置いて翌朝それを燃やしたが、外部寄生虫のやっかいさは家庭で飼う犬猫でも思い知る事が出来る。そこへ今度は、ポジティブリストだ。もう対策もお手上げだろう。

こう考えれば、環境中のインフルエンザウイルスの感染自体を防ぐ方法など有る訳がない。茨城での抗体調査の結果から若い鶏のほうが安全らしいといわれたが、それ自体何の根拠もない。搬入の大雛だけが陽性だった例もあるし、前年からの情報をつなぎあわせると、これは全くの憶測に過ぎないが、予め韓国に見えたH9N2のような型が入って居た形跡もないではない。これをEDを伴う前期型とすれば、後期型は全くの無症状だ。参照坑血清は後期型のものだから前期型は引っ掛からない。これでも中国南部の例で交差免疫が出来るとすれば、実際引っ掛かる後期型に対してはブースター効果が出る。よって抗体は短期間に上がり、且つ高倍率になり症状も出ないことに説明が付く。

無論こんなことは養鶏場が考えたりすることではない。しかしこれまでいくら説明されても腑に落ちぬことばかりで、どうにも納得出来なかった。ただ茨城株が鶏を含めて環境中にいることは推測出来るが、浅田農産事件の強毒株もその後どこかに隠れてしまった。実際のことは全く分からないとされたままだ。

H 18 7 6. I,SHINOHARA.