鳥インフルエンザ問題の今後(175)



笹山 登生 先生 貴酬
いつも笹山道場のご議論を拝見して、大変参考になり厚く御礼申し上げます。こうしてお便り申し上げることを大変光栄に存じております。

さて、貴道場の《とき》様は今の日本では、誠に得難き人物であると、常々尊敬申し上げております。かつてイギリスのダイアナ妃が来日された折、白い羊の群れに、黒い羊が居る刺繍のスエーターをお召しになっておられたので伺ったところ、黒い羊の居ない、白い羊の群れは繁栄しないとする諺があると答えられたそうで、黒い羊と見れば有無を云わさず追い出しかねない日本の国民性との違いを見せつけられた思いが致しました。

日本で黒い羊を通すことは容易では有りません。私自身、意にも介されない一介の鶏飼い百姓の立場でありましても同じことが云えます。もとより無学文盲に近い私共では、《とき》様のように持論をもって並み居る相手に丁々発止というわけには参りません。我々にとって正にシンドラー的存在です。どうか絶滅されないよう願うばかりです。よろしくお伝えくださいませ。

さて 養鶏に限らず、日本の多くの業界が狭い社会的スパンに固執せざるを得ない最大の理由は、その国があるからこそ生きて行けると云う大前提以前に、総じて国の特別のご配慮がなければやっていけない弱い立場でしか物が言えないことにあると感じて居ます。規制緩和は弱肉強食を助長し、酒屋も米屋も皆立ち行かなくなって来てしまいました。

ご専門の農林予算もその過半は業界の補助援助の類いに費やされております。また業界のほうも、それに慣れっこになり、先に立つ者への期待は、如何に補助金を分捕ってくるかにかけられます。官庁は予算を、学者は研究費を、日本中皆同じです。補助金なんかに頼って居たら何時迄経ってもキチンとものが云えない。小さくても経済的に自立しようとの呼びかけに応じる仲間は皆無でした。私自身は云い出しっ屁で意地でも制度資金などは入れませんでした。これでは孤立はやむを得ません。ただ弱みはないから、口だけは達者になるのですね。この鳥フル問題以後は、ひそかに応援してくれる業界人が増えて来ました。ただ皆あからさまに口に出来ないのです。兵糧を断たれかねませんから。それに私の場合はあくまで業界側の立場ですからよく云ったと煽てられることもあります。だから意外に組織内の指弾を受けることは少ないのですが、何と云っても業界行動の元になるのはプロパガンダであり公的見解であって、それに従うことがコンプライアンスでありマジョリティで有り続けます。だから語呂合わせの<マジョ狩り>には弱く、公権力が動いただけで、もう否応無しに悪と見なされてしまいます。どんな会議も、官民協力と銘打っても、国の方針に沿った形の結論しか出てきません。それでなくては補助金も出ません。《とき》様の云われるとおり私の個人的主張が通ることは未来永劫ないでしょうが、同時に業界が補助金を蹴ってまで、何かを要求するなんてことも出来っこありません。これは笹山様のご指摘の通りです。護送船団体制は今のところ国が出す補助金で動いて居る形ですが、農林漁業の規制緩和も進み、他産業からの参入が増えてくると、これまでの借金だらけの中核大型農家は総崩れになることが心配です。国策にそって農家経営を大きくするのは簡単ですが、それよりも財務内容を良くして、何か有っても自力再生が出来るよう心掛けるべきだと呼びかけていますが全体的には無理な話です。勝手なことばかり申し上げてしまいました。今後ともよろしくご指導のほど願い上げます。皆様のご健康を心からお祈り申し上げます。 敬具。

H18 7 1 夜 篠原 一郎