鳥インフルエンザ問題の今後(172)



闇ワク問題は今もそのままだ。われわれ鶏飼いにも誇りというものがある。確たる証拠もなしに、やれアンダーグラウンドワクチンだとかフォールトワクチンだとか世界に発信したマスコミやその元を作った当局や小委員会の気が知れない。その極ともいえるのが昨年11月8日放送のNHKクローズアップ現代だった。この屈辱は忘れることが出来ないだろう。

ウインドウレス鶏舎の場合は、その構造上、馴致やフィードバックという手法は取れないから、生ワクチンに対する警戒ぶりも一通りではない。ニューカッスルのB1株のような安全性が確認されたものでも、必要な場合には、あまり効果がないと分かっていても飲水投与が行われている。スプレーは怖いのだ。そんな感覚の大手業者が性の知れない危険なワクチンの勧誘などに乗る訳は無いのに、茨城のその獣医師たちはそんな嫌疑も含めて公判が進んでいる今も拘留されたままだと噂されている(定かではない)。こんな有り得ない理不尽なことがあろうか。まさに茨城県における、危険な公権力の行使といえる。

先日も或る会合での懇親会で、業界の数人のいわゆる知識人にこのことを問いかけて見たら、一様にあいまいな返事が反って来た。世界に向けて公式に近い形で発信され、前記NHKを初めとして中世の魔女狩りにも似た手法で世論が形作られてしまうと、どうにもならなくなってしまうのか。

確かに殺処分を免れるための検体の差し替えについては争ってはいない。ただその行為も寧ろ普段の持論から、自場の利益や、他へ及ぼす危険を顧みない勝手な動物愛護とは一線を画した、獣医師としての信念の表れでもあると私は見ている。だからその当時から彼ら民間の獣医師たちが、互いの情報を持ち寄って、なぜ行動に移さなかったのかは疑問であった。2002年の東京でのシンポジュームで、イタリアでのこの問題を伝えたカプア博士の話でも民間獣医の活動の重要性を強調していた。民間のそれに不信感を募らせて、ことごとく排除し、その機能を家保に集中させるようなやりかたで今後、事がうまく運ぶ道理が無いではないか。

現実には私自身、起訴された人達を含めて茨城の民間獣医さん達とは一面識すらない。いわんや個々の人間性など全く知らない。ただこのようなことで、今後大切な役割を担う全国の臨床獣医が意気阻喪してしまっては容易ならざる事態と思うと同時に、獣医はもちろん、一歩下がって我々鶏飼いもお上やNHKが思うほど、品性下劣ではないぞと自負するものであり、闇ワク問題がもともとお話しにならぬ下劣な話であることは、NHKのその番組の薄汚い映像が何よりも証明している。その後同じNHKで放送されたBBC編集の鳥インフルエンザ報道の内容とは天地雲泥の差があった。

その下劣な話を全世界に発信した日本は、本当に薄っぺらな誇りのない国であるとの印象をあらゆる国々に与えてしまった。一番恥ずかしいのは我々日本の鶏飼いである。証拠もなしにこんなことを世界に発信した国は日本だけだろう。お陰で中国にもブラジルにもメキシコにも、はっきり云えば馬鹿にされたではないか。

大切な鶏、しかも何十万羽という大量の鶏に、不確かなワクチンを投与するなど、自身が不確かなワクチン接種を受ける以上に恐ろしいことだ。この基本的な感情は、鶏を物としか見ない部外者には分からないのかも知れない。

H18 6 30. I,SHINOHARA.
No.20946