鳥インフルエンザ問題の今後(161)



《とき》様ご指摘の通り、<清浄国論>下の今の日本ではウイルスがあることを単なる推論でなく情報を捕らえて主張したとしても異端になってしまいます。「日本でH5N1型での感染発症がほんの数カ所で発覚しただけで広く顕在化しなかったこと」も、前年のオランダのH7N7の事例と比べて違いが大きすぎます。また79年前の日本でのH7N7の発症では、その斃死率が100%におよんだ為、A/Japanの事例として、病勢が強すぎるため伝播しにくいとして、その防疫面で広く世界の参考にされたと教科書にはあります。

それと比較すると特に処理の遅れたとされる京都の例では、甚急性の経過を辿った個体が多かった反面、既に病鶏の出荷が為されていたり、平気で耐過する鶏が居たりで、もう拡がるのは必至と見られたことからも、とりわけ浅田農産への風当たりが酷くなったきらいが有ります。ところが実際には少なくとも表面的には拡がりを見せなかった。その処理は事実上手遅れと見られて居ただけにその結果は意外で僥倖ともいえるものですがそれで済ませる問題ではないので我々現場でも世界各国の事例と比較して科学的ではないにせよ推論を重ねて来た訳です。

先ずイタリア初め多くの国で、間隙を突く形でニューカッスル病の猖獗を見て居ますが100%のNDワクチン接種を義務づけて居たドイツでは隣国オランダ、ベルギーのH7N7による惨状にも係わらず公式には一件の発生のみでした。しかも彼国では野鳥の調査では多くの汚染を認めて居る情報が比較的信用の出来る国です。だから我々は交差免疫というだけでなくもっと広く、競合排除や干渉作用があるのではないかと半信半疑で実行しながら隔離の一方で馴致も心掛けて居る訳です。

また交差免疫ということでは早くから日本獣医公衆衛生学会の資料で南中国でのH9N2とH5N1の間の中和抗体ではない細胞障害性のT細胞に由来する細胞性免疫が認められたということにも注目してきました。

ただどういう訳か日本の学会では、そのどれも認めて呉れません。喜田教授などもNHK番組の「キーパーソン」で異なるH間、N間の交差免疫を否定しています。従って我々の現場では学者の同意は得られぬまま体験と世界の情報を取り入れながら模索を続けて来ました。またアジアでH5N1に先立って流行したH9N2は韓国での拡がり状況や中国、台湾を含め外電でall acrossとまで表現されながら日本では一向に検出されない不自然さはあっても、その存在が実際一時的にせよ強毒H5N1の発症をおさえていたという中国の事例を見、かつ育成業者によるドイツに近いNDワクチンの普及、更にはMG生ワクチンによる基礎免疫的効果など諸外国に無い強みが我が国の多くの飼育現場には存在する気がします。従って発症を防ぐという意味ではなく、単にウイルスを根絶して浄化を図るという目的での調査を本気でやれば、実際には或る種汚染?によって<清浄国>の体面を保って居る要素を国自らの手で悉く取り除いてしまうことにもなりかねず養鶏産業なんて簡単に消滅してしまうでしょう。たまたま見つかった茨城株を皆殺しにしたことは東条さんのいう大石を山上から転げ落とした行為で、勢いが付けば途中では誰も止められなくなり戦争と同じで谷底に、つまりは日本中の鶏に類が及ぶまで阻止出来なくなるでしょう。今のところ茨城だけの問題のようですが、明らかにその現地の被害を過小評価し過ぎています。

H18 5 16. I,SHINOHARA.