ゴールデンウイークも終わって卵価も一段安になったらしい。武者小路実篤の埼玉<新しき村>を尋ねたら長老の渡辺貫二さんは去年、九十五歳で亡くなっていた。同年の根津与さんからいろいろ話を聞いた。渡辺さんは戦後の埼玉の採卵養鶏の先駆者の一人で、永年養鶏を村の経済の中心に置いて努力していた。村の養鶏も卵の小売は好評と聞くが、規模的には往時の比ではなく、並んだ空き鶏舎は鳥インフルエンザとは関係ないが何故かダブって見えた。 新聞雑誌の報道でも、明らかに闇ワク捜査の別件逮捕の感じの愛鶏園関係者の立件後の尋問は進んでいないというが、その線での捜査ならもともと無いことだけに当然である。あまりにも怪しい手合いからの情報ばかりで、鶏飼いとは幾ら企業化してもあんなものとする見くびりがNHK報道初め全体に無かったとは言えまい。ここまでコケにされたんだとの無念さをこの業界人は風化させてはならない。あえて苦言を呈するなら、かつて業界の集まりでの旅館の駐車場に、ベンツのS600などという高級大型車が勢揃いしていて、その筋の集まりと勘違いしたことがあるが、その意味では意識そのものを鶏飼いの原点に戻すべきである。 さて今回、ヨーロッパの鳥フル拡大により種鶏の輸入が止まった事に鑑みて、今後は我が国独自のニワトリの品種開発を、という農相の発言が紹介されている。繰り返すように、この問題は養鶏の根幹に係る大問題である。鳥フル自体が当面の問題ではないだけに一方で「当面は鶏の飼養期間を延ばすことで対応出来る」とした当局のノーテンキ振りには呆れるより無い。 品種改良で生産を短期集中させるようにした結果、今の鶏は飼育延長が効かないのが特徴なのだ。急激に卵殻の劣化が起こり安全性が損なわれる。卵の安全性は決して賞味期限によってもたらされているのではなく健全な卵殻で保護されているからこそである。それを更にGPセンターで洗浄し一個づつ独立した形でパック詰めされ、以後細菌が中に入らぬように保たれる。それ故にこそ健全な卵はマーカーとしての腐敗菌の侵入もなく、従って腐ることもないのだ。基本的には種卵とて同じである。この大切なことも忘れスーパーの売り場でも、一個づつのバラ売りが流行って来た。昔に戻ったとも云えるが、やはりキズがつき易く危険である。 かつて我が国には、大宮、岡崎、兵庫、熊本、それに奥羽支場と5つの国の種鶏場(種畜牧場)があり、各地方にも夫れ夫れ種鶏場があって民間の孵化場も種鶏場を兼ね、傘下に多くのブリーダーを抱えていた。それらの人達が業界の主流だった時期も長かった。 しかしその後、集団遺伝学に基づいて改良された外国鶏が大挙して襲来すると育種規模の劣る日本勢は太刀打ち出来ず、一方で求められるロットは膨らむばかりで、ほとんど輸入鶏に頼らざるを得なくなった。バフコーチンと云われる輸入のエーコク種から改良され「名古屋種」として、むしろ卵系として確立された名古屋コーチンも近年は肉質で見直されているが、脛が鉛色で黒い筆毛が屠体に残る肉用種としての欠点を、名古屋の食文化としての<水炊き>がその味を喧伝した形で希有な成功例とされても決して一般的ではなく、効率の点ではコーニッシュとホワイトロックを原点とした外国ブロイラー品種に委ねるよりない。この点は採卵鶏でも同様である。何れにしても鶏の改良繁殖など一朝一夕でどうなるものでもない。当面の採卵延長策と品種開発、そのあいだの実際的な解決策を当局はわざと避けているとしか思えない。 H18 5 10. I,SHINOHARA. No.20037 |