鳥インフルエンザ問題の今後(154)



養鶏産業の基礎とも云うべき原種鶏の輸入がストップするという重大問題なのに「ヨーロッパが駄目ならアメリカ、カナダがあるさ」式の農水省の相変わらずの呑気さ加減には恐れ入る。一方でパンデミックが起きた場合は数週間、数カ月でウイルスは世界中を回るとまで脅しながら、鶏の場合はトンコレラ並にしか考えない。そのくせ総てに鷹揚に構えるのかといえば、たまたま見つかったに過ぎない茨城の無毒株を殺しまくる。このチグハグさは何とかならないものか。

先日の毎日新聞の記事では、動衛研の獣医師が無断で検査をした疑いがあって、養鶏業者から「研究所が信頼できなければ、感染原因は究明されない」と怒りの声、とある。仮に公的見解や発表に疑念があるとすれば、真実を確かめようとするのは科学者の良心である。いくら日本は清浄国だと云われても、韓国でのH9N2の蔓延状況や台湾のサーベイランス結果を知らされ、更に偏西風の風上にあたる国々の惨状ともいえる民間情報に接しては、常識的に考えて日本だけ清浄だと思う方が無理ではあるまいか。

そう考えた時、動衛研にしろ民間のラボにしろ、立場を越えて独自に調べたいと思うのは当たり前で、そこで調べた事実こそが真実の筈である。なぜならそれは繰り返すように科学者の良心によってもたらされたものだからである。ただ実際調べるとなると特異的発症を伴わないLPAIの場合、高度な検出技術が必要とされてきた。抗血清、参照試薬など、どれをとっても具体的には動衛研を頼ることになる。

仮にである。カラスの場合と同じように茨城での2005年の渡りガンカモ2000羽の検査の結果の公式発表が「すべて陰性」だったにもかかわらず、動衛研の独自検査では茨城株以外のH5ストレーンが見つかったとしよう。我々現場がどっちの情報を信じるかは明白である。いくら有能な外交官がナチス本部に張り付いていても実際のスターリングラードの敗戦は分からなかった。結果はドイツの尻馬に乗っての敗戦であったとされる。私が一面識すらない江口獣医師の言動を情報として重視するのはそんな理由からである。例えば小委員会に入る前の大槻教授は独自の野外調査でペンシルバニアのH5N2と近縁のH5N3株を国内で発見して慄然としたと当時我々に講演した。当然のことながら現在の国内の状況はその当時の比でないことは研究者の海外ポスターなどからも見て取れる。

まあ世界の情勢からも国内で大々的なアウトブレークが起こればワクチンは許可されるだろう。問題は茨城型である。H5,H7に関してはたとえ無毒であっても発見されれば殺処分の前例を残したままでは強毒発症を待つまでもなく日本の養鶏は壊滅する。

状況証拠でいえば茨城株の如きは、たまたま茨城で偶然発見されただけなのである。何故茨城で発生したかが最大の疑問だなどとする見解は当局のこじつけ発表に毒されたままでいる証拠でウイルスは大笑いしていることだろう。AIウイルスのあるところ、つまり地球上いたるところ<所きらわず>の筈で、特に茨城株のような鶏に親和性のある弱毒株はどんどん増えているそうである。周辺諸国の状況からみて何故日本だけ清浄なのかと寧ろ揶揄されることは、心ある日本の研究者の中には耐え難い屈辱と感じて居る人達がいることも伝えたい。

H 18 4 30. I,SHINOHARA.
No.19935