鳥インフルエンザ問題の今後(145)



日本の実態は額面通りの清浄国なのか、それとも汚染国なのかという疑問は一昨年9月、喜田教授らの臨席を仰いでの青森大会の時の命題にもなった。国は無論、茨城600万羽の犠牲でもなお、清浄国論の旗を捨ててはいない。単なる推論ならば人型を例にとっても、これだけ人の出入りの多い我が国で空港の<踏み込み消毒バッチ>や熱感知くらいで新型インフルエンザの侵入を防げて居るなど、実際は誰も本気にはしていないだろうが、さりとてその証拠を挙げるのは社会的にも難しいのかも知れない。

鶏のほうも同様で、我々は単にゲル沈検査だから駄目だとかHI試験ならどうかとか簡単に考えて要求したりして反って当局の術中に嵌まって来たが、実際は鶏病研究会専門委員を擁し独自の研究施設を持って居た愛鶏園ですら、ある種非常手段で坑血清を手に入れねばならなかった事情などからも分かるように、汚染実態の解明など獣医微生物学の面からだけでも容易ではない上に貿易、政治、民衆心理など社会的な諸々の要素を加味すれば物事は容易には動かせないという事だ。映画<ジョーズ>の冒頭画面に見るように一旦観光地として人を集めたからには実際の被害が出なければ当局は動かなかった。養鶏にとってのワクチンと被害の関係もそうなのだろう。

さりとて茨城の実態を見てもLPAIの存在と不顕性感染の拡がり自体は疑う余地はなく、隣家の処置を急ぐことでウイルスがそこに止どまり自家への感染を阻止出来るという顕性HPAIに対する撲滅対策では最早対応出来ないことを我々自身知るべきだと思う。

さて愛鶏園事件で、いよいよ家畜伝染病予防法が治安維持法にも似た悪法であることがはっきりしてきた。学究的にその実態を調べようとした行為が国の治安(清浄国論)を乱すものとして逮捕されるとなると、民間の獣医師はすべからく危険分子になりうる。そんな図式である。何故民間の獣医達は立ち上がり抗議しないのか。業界もどうしたんだろう。

何度も云うとおり事実上のLPAI対応策が何も無い中で、発症もしないものを疾病として届けねば違法なのか。それ以前に有ったとされた取るに足らない症状は、鶏にとって総ての疾病に共通のもので当の管理獣医師達の判断で許される範囲のものである。人間の医者だって、クシャミ鼻ヅマリの患者をいちいち保健所に届けたりはすまい。要するに、放っておけばいいものをなまじ調べようとしたから危険分子にされた形である。これでは民間の獣医なんかやってられない。

もう一つの検査妨害とやらも公による重大なボタンの掛け違いを、彼らが研究者としての良心と熱意で、その拡がりを止めようとした行為であることは、その持論からもはっきりしている。それとも当局はこの期に及んでも、まだ彼等に闇ワクの疑惑があるとでも云うのだろうか、そんなものは最初から有る訳ないではないか。愛鶏園組織ぐるみの犯行の疑いと新聞は書くが、この事は寧ろ養鶏業界、獣医師会に降りかかった問題として抗議すべきことではないかと思う。

この事件は家畜伝染病対策での官民間の永年の協力体制をズタズタに引き裂き、悪い癒着として印象付けてしまうなど、この裁判の結果次第では禍根を永久に残すことになるだろうと一鶏飼い百姓の立場でも憂えるのである。

H 18 3 18. I,SHINOHARA.