鳥インフルエンザ問題の今後(141)



《根絶思想》は《とき》様や鶏界の大先輩、所 秀雄先生の云われる通り、国の方針に従って業界に広く染み渡ってしまって居る。これを啓(ひら)くのは回天の事業に等しい。だからこそ茨城県だけでなく日本の畜産界の為にも、持論としてその思想に批判的な江口さんは、現場にとって本当に必要な指導者なのである。

野に在れば、喜田教授もその筈なのだが如何せん御用学者を代表する立場である。中国総領事(親任官)で後に西武の大番頭になられた中嶋 忠三郎先生には生前ご贔屓戴いたが、「満州時代、親交のあった東条 英機さんはこれこれこういう人でした」という面影は陸軍大臣、総理大臣になってからとは正反対のイメージに映る。そういうものだろう。

私が若い頃、薫陶を受けた金子力三という方は板垣退助の書生で大野伴睦の盟友だったが、C級戦犯になり弁護士資格も剥奪されて最後まで泥水の世界を避けるとして政界入りをしなかった。それらの話から野に在る人材こそ貴重であるとの認識は野に居ればこそ実感される。

鶏の研究誌3月号の茨城県養鶏協会長さんの話と今回の茨城県の防疫体制の強化方向は完全に一致する。とすれば《とき》様指摘の通り、これは県業界の意向に沿っての話に間違いなさそうだ。とすれば江口さんも浮き上がって居たなと感ずるのである。

《とき》様にオベンチャラ云うわけではないが、弱ったイルカが溺れるのを恐れて浅瀬に近づく説に感心させられた。海の生物が溺れるという発想はなかなか浮かばない。水鳥の大量死は油が総ての原因ではないとはっきりしていても公式には油原因とされるのだろう。獣医だから人間以外は診るだろうと思うと大間違いだ。公的な連中など自分の研究予算のついたものしか診ない。家保と地方衛研の線は地方行政の管轄下で余計なことは出来ない。浅田事件の後、ネズミが危ないとされても鳥の学者ばかりでネズミ学者は居なかった。動衛研だって家衛試の昔は一羽の検体を持ち込むと各部屋を回ったが今は本当に縦割りらしい。

そんな日本でも浅田事件以後、処理場などに現実に病鶏が持ち込まれた事実があっても陽性のカラスが居ても全く拡がりを見せなかった。過去のNDの場合と全く違う。そのNDもワクチン接種率が低い割に強毒型でもほんとの散発で終わる。館沢さんの基礎免疫説のように、育成中のワクチネーションによる競合排除、干渉が効いているとしか思えない。その中でも粘膜面を覆って鶏の一生複製を続けるMg,Msの生ワクチンなどの効果は大有りだと感じる。今回の茨城株問題も、その持論からたまたま何でもないものが表面化しただけであるとする江口説を、立場を越えれば支持している専門家のほうが多いだろう。

しかし撲滅論の立場に立ち、それにマスキングされてサイレントエピデミックにより公衆衛生上の危険が増大するだろう、と恐怖を煽る御用学者の言い分を真に受けたマスコミが食品安全を盾にとっての論調に、国民大衆のみか業界までその気にさせられ、自分たちの動きの取れない方向へどんどん押しやられ鶏飼いどころではなくなってしまう。そして唯一それを押し戻そうと努力する現場の指導者の江口さん達を、業界自ら血祭りに挙げてどうしようと云うのだろう。

H 18 3 9. I,SHINOHARA.