鳥インフルエンザ問題の今後(139)



「茨城株如きで鶏を処分することはない」と江口獣医師が看破し、そう云って居たとすれば、結果的にその通りだったではないか。唯一とも云える専門家としての的確な指摘であった。万一それが外れて大被害を被ったとなれば指導者として糾弾されても仕方がないのだが結果はまるで逆である。寧ろ正解が彼一人であったのだ。そして残念ながら600万羽は救うことが出来なかった。その意味で彼は敗軍の将である。

何時もながら目にするマスコミの論調はひどい。浅田農産を貶め老夫婦を死に追いやった<通報遅れ>を今回もまたでっち上げて犯罪的に組み上げて居るこの手法は全く許すことが出来ない。同じように三年経ってマスコミに騙された世論が気づき、いつもの業界の訳知り正義漢が出て来る頃には手遅れになっているだろう。

度々繰り返したが、軽い呼吸器症状と産卵低下はここ10年位、養鶏現場の悩みであった。これに数々の状況証拠からLPAI(弱毒鳥インフルエンザ)が絡んで居るのではないかとの疑念は皆持って居た。しかし坑血清を持たないので民間ラボでも発見出来ない。それに国は《清浄国論》を堅持して公式にはそれを認めようとしない。それでも動衛研のカラスであるとか、検疫の記録とか研究者の個人的観察、それになによりも隣接国の事情からわれわれ現場はそれが在るものとして、基礎免疫で競合排除を心掛けるなどしながらやってきたのである。

その《清浄国論》が建前であるうちは特異ワクチンが許されないことが問題な位だが、実際の清浄化論や撲滅論に変化した場合、御用学者の手に掛かると環境中に沢山いるとされる無害なものまで悉く強毒変異の恐れがあるとされて排除されかねない。それが現実の恐怖になったのが茨城株問題である。現場の恐怖はウイルスの被害ではなく、御用学者のそんな無責任さにあったのである。

そんなやり方を続けたら日本中の鶏は居なくなる。現場で危機感を抱いたプロ達の努力もあって、それなりに国も動き茨城株の犠牲はそれでも茨城半国で済んだのである。小委員会にまかせておいたら茨城株はとっくにエリアを飛び出して居る筈だ。その功一級の功労者を業界は見殺しにしようとしているのではないか。「茨城株は殺すべきではない」との信念に基づいた数々の行動はしかし悉く企業の立場、犯罪的行為と受け取られ養鶏業界は一時的にせよ一人の逸材を失うことになった。それでも既にわれわれは茨城600万羽の鶏と何より大切な業界の信用を世界的に失った。江口獣医師の持論と行動が生かせれば、こんなていたらくは避けられた筈である。

しかし繰り返すようにそれが茨城半国で済んだのは、彼等の運動に国も一定の理解を示した証拠であるが、デマに躍らされた一部業界人の耐え難い非難まで浴びながら壊滅的な被害を受けた茨城現地には同情を禁じ得ない。この上は、一刻も早い江口氏らの名誉回復をはかり、その叡知をもって再び業界に寄与して貰えるように心掛けるべきである。

鶏病研究会の専門委員ですら個人的に、それも内緒で動衛研の技師に余禄での試験を依頼しなければならなかった環境こそが問題である。我々の頃はもっと自由だった。

H 18 3 6. I,SHINOHARA.
No.19032