鶏飼い時事(じじい) …『茨城株問題の総括を』



思い返すだに忌まわしい茨城県600万羽の健康鶏の殺処分。この事への総括は、国や業界団体、大手業者だけでなく、われわれ普段は《阿呆の鶏飼い》を自認しながらもそれによって生計を立てている風情一人一人に至るまで深い反省と鶏霊を弔う気持ちを込めて行いたいものである。残念ながら未だに、業界のそこここに闇ワク疑惑が残っている。むしろ不思議である。

確かにこの問題はこれまでも何時の場合でもついて回った。1971年の馬の事例など、緊急且つ一斉のワクチン接種で認可そのものは翌年だった。国による国を挙げての不認可ワクチンの接種である。肝心なことはそれによってH7N7は人へも類を及ぼす事なく鎮圧され、爾後も接種を続けることで大過なく今日に至っている事実であり正に英断だったと云える。

茨城株は公式発表後8カ月を経て全くの無毒株であることが実地に証明された。強毒への変異もなく、抗原的差異が極端だとする大槻教授のコメントを逆手に取れば、それだけ致死的H5N1をマスキングする危険も少ないことになり、繰り返すがハナクソみたいな株である。ほじくり出したのが野暮だった。ハナクソを元の鼻の穴に戻したA養鶏B獣医師の行為こそが結果的に正しかったのであり正に千里の馬は居ても、それを見いだす伯楽が居なくて残ったのは駄馬ばかりと云えば言い過ぎか。

ここへ来て我が国も業界側からワクチンの要求がかまびすしい。そこへ行くとさすが先進国だけあってフランスの対応は早く、オランダも過去に3000万羽を犠牲にして産業の極端な疲弊を招いた反省から今回は出足が早い。ワクチン反対論の根拠の主たるものは、相変わらずマスキングによる潜在的流行、サイレントエピデミックの問題である。しかし現在の茨城株に見るように、自然界にはH5,H7であっても無毒、弱毒のものも多いとする普段の研究者自身のコメントにもある通り、致死的株のマスキング問題などワクチンに因らずとも、自然界でいくらでも起こり得ることは南中国のH9N2の例などからも明白だろう。

一部に、ワクチン欲しさの業界が茨城株事件を、ワクチンを許可させるために意識的に利用しているとの<下種の勘ぐり>さえ有るという。全く冗談ではない。われわれ現場は所謂ガセネタの真っ只中にいる。ただそれだけ選別能力も自然と身につけて居る。今回も毎度の事の闇ワク情報に無定見に飛びついたのは、世事に疎い学者達ではなかったのか。そしてそのことへのこだわりが600万羽の人為的虐殺に繋がったのだ。

一つ気になることがある。どうもヨーロッパの先進国では野鳥から先にウイルスが見つかり家禽への感染は後になる。そしてそれが自然でもある。逆に飼育場での事例発表は、現地の話でも押さえられ気味らしい。その点日本は全く逆だ。公式発表ではさすが清浄国、自然はきれいのままだが反面養鶏場ときたら闇ワク偽ワクの世界に向けての公式報道で、国もろとも世界中の顰蹙を買った形である。ところが国内では誰もそれを不思議とも思わず、特定区域から抜け出さないウイルスのことも含めて闇ワクで納得してしまう。600万羽の健康鶏の処分には何も云わず、自分の鶏に対してだけ鶏霊碑を立て鶏供養をする業界人。全く不自然でおかしな国でありおかしな国民性だと自嘲したくもなる。

H 18 2 26. I,SHINOHARA.
No.18839