鳥インフルエンザ問題の今後(115)



現地の切実な情報はガセネタも含めて刻々と入って来るのに、表立った苦痛の声は、小委員会などに一向に伝わらぬらしい。

もともと小委員会には現地の声を取り上げて方針を決定するような機能はない。彼らの中心は全く世間知らずで別世界の住人として自他共に認める大学教授であり、小委員会とは政府をスポンサーとした学術会議に他ならないのである。だからそこでの論議も結論も内容的には本来の防疫にとってはあまり意味のない事ばかりで、そのくせ現場は塗炭の苦しみに喘ぐことになる。これでは伝え聞くいつもの彼らの学会での学術集会と変わるところがなく、彼らの眼中には鶏も養鶏産業も、況んや鶏飼い風情のことなど何処にも在りはしない。その証拠が彼らが養鶏家の為を思って決めたという唯一の内容である解放鶏舎での陽性鶏の殺処分留保である。それもネズミが入れぬことを条件とした正に現場を馬鹿にしきった内容である。呆れ返って物も云えぬ。

確かに現在の危険な流行型と全く関係のない、それ自体は無害に等しいLPAI株を偽ワク疑惑も絡めて片っ端から殺してかかるのもさることながら、より深刻なのは鶏の飼育システムを根底から覆す暴挙をいとも簡単に決めてしまう学者達のやり方である。陽性というだけで公的検査でウイルスも見つからぬ鶏群を大量に鶏舎に3カ月も止めて置く弊害について彼らは一顧だにしない。その理由も「ウイルスが潜むかもしれない」と自ら公的検査の精度を否定しているのだから何をか云わんやである。

繰り返すが、税務当局でさえ1年以内と認める鶏の経済寿命では、通常年間に同数の補充雛を準備して置くのが普通である。従って成鶏舎の産卵鶏に合わせて、種鶏の導入、採種、孵卵、育雛が順次行われて居る。それが検査による俄かの移動差し止めですべて止まるのだ。廃鶏処分直前の鶏が居れば、必ずその補充雛が控えて居る。さして理由のない監視開始で健康な搬入直前の多くの雛が突然育成舎でクビが出なくなってしまうのである。それらは潰すより仕方がない。それ故、逆に殺処分を願いでるケースも出てくる。茨城県がLPAIについて処置の変更を国に願い出た理由はその辺の事情もあるとされる。その切実な申し出に対しての小委員会の回答が前記の人を食ったものなのだ。

首が出せなくなった大雛は殺すしかない。もう半年分の雛は育っているのに成鶏舎はふさがったままである。その後の分は孵化、入卵中止となり、ひいては種鶏の導入も制限される。かくして養鶏産業はHPAIの発生を見ないうちから衰退の一途をたどることになる。そうやって種卵も無くなってから、本物のH5N1が入って来たらどうやって人間用のワクチンを作る気だろうか。そんな基本的なことも分からずにその時々の思いつきみたいなことで無責任に事を決める小委員会の存在は全く許せない。

一方では、世界各地からの報道でアジア型H5N1HPAIの危険性が続々知らされて来る。やはり脅威なのはアメリカでのスペイン風邪ウイルスの復元から、8種類のRNA分節のうち3種類までが両者酷似し、現実に生物兵器に供される恐れがあるとのことなどで、学術会議とすれば、それと茨城型の抗原的な差異を早く明かにすることである。そのことにつき鶏卵肉情報誌では大槻委員の話として、両者の間に備蓄ワクチンが全く効かぬほどの差異があることが紹介されている。尤もそこでは10の5乗という従来考えられて居たウイルス量を用いての感染試験だというから、現在進行して居る茨城での感染の仕方とは相違があるに違いない。しかし両者が抗原的に全く別物である事実は明かなのだろうし、備蓄のワクチンが効かないというのがそれを物語って居る。その違いこそがまた自然界に存在しない偽ワク疑惑の元にもなった訳である。

その疑惑も茨城32例目以降、公的検査の積み重ねから自然の感染であることが確認された。この自然に少なくとも135種類(最近ではH16も)以上の亜型の組み合わせが存在出来るとすれば、いくら清浄国論のもとでもその全てを相手にする訳にはいかない。現にアイガモなどのH4N6については事実上おかまいなしである。その点で茨城のLPAIもたまたま名字が強毒型と同じというだけで抗原的な違いは全く無視されて、実際の危険は考えられぬのに人為的に殺され続けて居る。更に拘束監視を続けることによって前記のように産業そのものを壊滅させる手法を、下手をすれば全国に拡げようとする愚挙暴挙を、業界とすれば一致団結して排除しなければならない。それには何よりも小委員会の正体を見抜くことである。繰り返すが実際の問題解決には学術会議は役に立たないのである。

もともと偶然の形で見つかった今回のLPAIでさえ、「もうウイルスの活動はない」と成果を強調した大多数の委員や「強毒化は確実だった」とテレビで公言した委員の、いずれもの見通しを裏切って、ウイルスは静かに活動を再開した。さすがに冬場になり、基礎免疫も切れてくるから、普通にはいろいろ絡んで症状の出ることも考えねばならなくなる。小委員会は百害あって一利なしである。当HPも最早や辛口というよりヤケクソに近い。そんな時、《とき様》の復帰は心強い。またいろいろ教えて戴きたいものである。

H 17 11 29. I,SHINOHARA.
No.16951-16952