鶏専門の臨床研究家が居ない、なぜ学者はワクチンに反対するのか



以下記者との一問一答

『トリインフルエンザワクチンは感染を防げない。従って感染したウイルスが鶏の体内で強毒、更にはヒトのインフルエンザに変異するおそれがある』と言われた。

トリインフルエンザワクチンは感染を防げないが発症を防ぎウイルスの糞への排出を著しく減少させるという。それによって人への感染も押さえることが出来るという本来の効き目をそっちのけにして副作用だけをならべたてるのはおかしい。学者であるからには歴史的にも検証すべきだ。過去に変異した実際のインフルエンザ、エボラ出血熱、西ナイルウイルス、SARSなどの人獣共通感染症で人為的ワクチンに起因するものがあったとでもいうのだろうか。じつは一つも無い。鳥取大学の研究にしても弱毒が強毒に変化するのに25経代を要して居る。鶏の繁殖で近交係数50パーセントというと大変な数字だが、全きょうだいで、たった3代の交配でも3年を要する。すこし予断が過ぎないか。


『不活化ワクチンは変異するRNAウイルスのトリインフルエンザには効かない』

理論的にはそうでもイタリアの例ではH7N1の流行をパキスタンのH7N3のワクチンを使って押さえたとされHタンパクが同じならNタンパクが違っても交差免疫が成立すると説明している。我が国では喜田宏教授がいうようにNタンパクも同じ、つまり交差免疫を否定するが、斯界の権威者といえども鶏の臨床に関しては素人に等しく、我が国に鶏の臨床の専門家がいなくなって久しい。交差免疫のあるなしを確かめるのは現場の事の方が多く、いまだにそんなことを云って居るのは日本だけだ。しかし今回備蓄が決まった、メキシコのH5N2ワクチンは、このイタリアの経験にもとずくもので、当然NI,N2間の交差免疫を期待したものだ。だから備蓄は決まったものの小委員会では話題にものぼらなかったらしい。専門家と称しながらじつは肝心の鶏の臨床については素人の集まりだからだ。そんな決まり方だから実際の使用に当たっては、また混乱し手遅れになることは必定で現場としては、これっぽちも期待出来ない。


『日本の防疫の基本は摘発して淘汰することだ』

初期段階でそれによってウイルスを根絶出来る可能性がある場合は正しい。
家畜伝染病予防法17条ほかの立法趣旨はまさにその辺にある。それは隣の国に鶏の病気が発生したからといって最初からワクチンで押さえる国はない。しかし今回は広くアジアに跨がる異常発生である。いつ何時やられるか、殺処分は事後処理であって侵入を防ぐ手段にはなり得ない。ウイルス侵入による鶏の発症を防ぐ主役は抗体を高めておくワクチン以外にない。発症をふせぎウイルスの排出を減らすほうが急激に発症させての埋没処理よりよほど安全だと考えないのが不思議だ。ペンシルバニア当局の話はその辺を考慮しているが、ここでも臨床の専門家がいない我が国の欠陥が如実に出て居ると思う。作業に当たらせられる人達こそいい面の皮だ。

それにトリインフルエンザの危険性が叫ばれて、私が知ってからでも30年近いが、その間、専門家と称されている人、政府は何をして来たのか。ワクチンの研究ひとつしていないというのは怠慢の極みというべきだ。殺処分をいう資格などないのではないか。自分たちでたまには鳥飼現場に来て、嫌なことをやってみるがいい。戦前、北大に直任官の偉い獣医さんがいて、我々百姓相手にねじりハチマキで出て来て応対してくれたと死んだ親父から聞いた「獣医ってのはつまらんよ君」。私らの頃もまだそうだった。だから現場とそう食い違いはなかった気がする。また具体的に摘発と云っても可能かどうかも考えるがいい。鶏が死ぬのはなにもインフルエンザばかりじゃないし一々届け出る訳ではない。地域への影響、経済的負担を考えるとき躊躇するのはタイ政府ばかりではあるまい。

だから周囲の国の状況を見て危ないと思ったらいち早く防御して置く必要があり、特に病原性がなく安全な分、不活化ワクチンはよほど早くから準備しないと間に合わない。その準備もさせないで申請はほったらかしとはどういうことか。周りでやられて緊急に対処するなら生ワクを使うしか無いのは現場は散々体験済みだ。全く云うこと為すことチグハグだらけなのは極論すれば、鳥の糞収集にかけては権威者でも、繰り返すように肝心の臨床研究者がいないことが致命的と思える。

もともと現場の知恵と学者の研究は交差するものだが、臨床現場に出て来ない、いまの学者が交差免疫を認めないのも皮肉な言い方だが分かる気がする。現場を無視した、コレクターマニア研究者ばかりだと手遅れになるばかりだ。獣医は物言わぬ動物を相手にして居るが、その臨床は飼い主を含めた臨床なのにその心理すら分からないのでは理論上はともかく実際には何一つまともに解決しないのは、中国、東南アジアでのWHOの現状をみれば分かるではないか。

要するに鶏と鶏の病気の専門家ではないのだ。
そういう人達に指導を仰いでいるからラチが明かないのも無理はない。ならば自分の鶏は自分で守る方向で努力すべきだが鶏のためにも飼い主の安全のためにも必要なワクチン使用さえままならない。確かに昔から鶏の病気には出刃包丁が一番、と云われて来たが,東南アジアの文字通りの出刃包丁も大量生き埋めも発症鶏の処理はあまりにも危険だ。理想を追って 手がつかなくなるよりワクチンで予め発症を押さえるにしくはない。鶏の段階でおさえようとするのに、あまりにも理想論だけで心理的、臨床的に無知な学者や役人が先導するとき、爆発的な発生が起こるか深く静かに潜行するかしなければいいが(尤もそうなったら養鶏業界は破滅だが)と危惧する。喜田さんの云う通り本当に一件だけで済むのか、過信と予断が過ぎはしないか、そこまでは知らぬと云いそうな、その人たちにも危惧するのだが。

以上は記者さんとオフレコで話した内容です。
今夜はNHKクローズアップ現代でトリインフルエンザをやりました。人類にとってほんとに深刻な問題です。

しかしとりあえず鶏の病気でありながら、鶏飼いを素通りして、なにか理想と理論と実験だけでみすみす被害を広げて居るようにみえるのは、やはり鶏の臨床をおろそかにしている面が有るからです。昔のように家衛試に行けばそれぞれの専門家がいて養鶏場はかっこうのフィールドでしたから、ワクチンの試験も実際の野外毒のなかでやっていたのは前述の通りです。そこでのいろいろな体験を生かしていままで来た訳です。本当をいえばNBIさんの局所基礎免疫とスプレー効果でNDとIBが交差したくらいですからAIも発症は押さえられそうな気がします。しかし当分逆風が、それも突風が吹き兼ねません。一旦港に避難します。今日は全部の取引先に通知しました。従業員14名はそのまま,あとは会社の資産を食い尽くすだけです。もうなるようになれで、そんなに気苦労はしていません。自然に任せて風をやり過ごしながら気楽に行こうと声をかけています。

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