『鳥インフルエンザ問題の今後(102)』



先般、H5N2弱毒タイプを事実上耐過した(馴致された)健康な148万羽の鶏群の茨城県での殺処分が終了した。この功績で責任者が叙勲されるという噂には笑わされるが公的見解に沿えばその通りだろう。我々百姓風情がとやかく云うことではない。しかし、それら馴致された鶏群が、此の秋にも危険な変異を起こすかもしれないとしていた業界内の多数意見も、改めて検証してみる必要があるのではないか。弱毒が半年で強毒に変わった話を最初に聞いたのは2002年のカプア博士の講演(於NBI)である。これはどうも以後定説というか神話になってしまっている。

しかし大槻教授の実験では、H5N3弱毒株が感染性を獲得し強毒に変異するまで25経代以上を要して居る。言い換えれば容易には変異しないということではないのか。もう一つ紛らわしいのは鶏の場合は一集団を一個体と見なすことで、変異というのも実際は個体から個体へ伝播を繰り返して起こり得るものを一個体内での変異と勘違いして捕らえられて居る点である。通常或る個体に感染したウイルスは2〜3週間で抗体を残して退去すると教えられているから、ウイルスのいない陽性鶏が強毒発症する訳はない。一方群中を渡り歩いて25経代で強毒に変異したウイルスが再度最初の個体に取り付こうとすれば、強力な免疫に跳ね返されることになる。

このように順序だてて考えれば陽性鶏が危険だとする理屈はどこにもない。ウイルスが隠れて居る可能性を言い出せば永久に移動制限は解除されぬし見えざるものは清しという以外ない。従って障害になるのは《清浄国論》に対してだけである。それをさも鳥フルウイルスだけは違うのだ、陽性そのものが危険なのだと意図的に教え込み誤解させて利用してきたのは外ならぬ国とその御用学者である。われわれとすれば鵜呑みの部分を、もう一度吐き出して良く吟味することが肝要である。

さていよいよ渡り鳥の飛来が始まった。世界的に鳥フルワクチンは不足している。ニューカッスル病猖獗時、ろくに効かない不活化ワクチンでも必要量の入手は困難を極めた。抱き合わせの消毒剤、ビタミン剤で倉庫は一杯になった。30年以上経った今でも空容器がゴロゴロしている。ワクチンはプレミアム付きでないと手に入らなかった。万一鳥フルワクチンが許可になったら同じことが起こる。今度は育成屋が中心だろうがどう考えても間に合う訳がない。弱小養鶏場個人での入手など出来っこない。いざとなれば何処の国でも同じである。

だから生き残るには、うまい馴致の方法を見つけるよりないというのが本音かも知れない。《お山の大将》と言い続けて来た競合排除、干渉利用の方向である。最近でこそ違うが、これらは実際現場の私達が発見して利用してきたとうぬぼれていたほど研究されていなかった。そして免疫の考え方から外れたこの方向は研究者の賛同が得られず勝手な理屈だけでやってきたのは繰り返し述べた通りである。わが家で当初のIBの攻撃試験で、両極端の変異株はおろかNDまでカバーしたと思わせた結果から、以来ND,IBに対して《お山の大将》方式をどこからの評価もないまま続けて来たことは度々述べたが、これをAIにも利用する目論みについて記して見ようと思う。

通常NDLVの説明書にはIB,ILTのLVに対して干渉作用の恐れがあり施用に一週間以上の間隔を置くように記されて居る。もともと両者間に免疫学上何の関係もないウイルス同志が、互いに相手を排除しようとするのが干渉ということだから、このことはAIVに対しても言えるのではないか、とするのがひとつ。
近年これがINF産生のために起こる現象だとされ、INFはどのウイルスにも非特異的に抑制効果があるところから抗体産生の障害になる場合でもINFは逆に増えるのではないかという期待がひとつ。
更に生体にある無数の特異的な、いわゆるレセプター(AIはシアル酸といわれる)で単鎖、マイナス鎖のRNAウイルスのNDと8分節のAIVとの間で共有する部分があるかも知れないという素人期待。更に今回のスペイン風邪のウイルス復元に関して、(-)鎖のRNAウイルスでのポリメラーゼと宿主因子の作用で、ウイルスとレセプターの相互作用のほかに細胞内の環境でもウイルスの感受性が決まる可能性があること、AIVが宿主細胞に感染する際、ゲノムRNAをプラス鎖に転写、その複製に関与する酵素、RNAポリメラーゼの重要性などを生半可ながら学なばされた。われわれ現場とすればこれらを概念的に捕らえて、すべてが実験でありトライ&エラーだとして取り入れて見るつもりである。どのワクチンをどんな間隔で使うかはめいめいが試して見るより仕方がない。

ただ基本的に言えることは、国が清浄化を目指し、AIワクチン接種はおろか、今回のように事実上馴致された鶏群までを即汚染と見なして淘汰の対象としているうちは隔離消毒以外、一切の自衛手段は封じられたままだという事実である。諸悪の根源だと思われる《清浄国論》も、実態と大違いの《ウインドウレス鶏舎安全論》もそれに加担する国があり、我が国の政府がそれを信奉する以上はやはり絶対である。ただそれが解除された時、事実上ワクチンの入手など困難(我が国にはワクチン卵としての受精卵の余裕はない。POXベクターはPOXV全鶏使用の日本では無効か)で、そうなったら、事にわとりに関してはフセイン無き後の某国と同じである。

パンデミーに関しては、知り合いの医者連中や鶏飼い仲間の情報からも、彼らが普段インフルエンザにはほとんどやられていない事実からして、スペイン風邪の頃と違って、鶏と同様、素人考えながら先進国の現代人は細菌には弱いがウイルスに関しては、かなり脱感作が効いて居るように思う。ワクチンの抗原変異の問題も、これまでだって10%しか合わなくても半分位の効果はあったのだ。それよりもスペイン風邪には老人のほうが強かったとする説、あまり当てにならない。我々老人は普段から40%くらいは肺炎で死んで居るというから苦にもされないだけだと思うのである。まあ一番の気掛かりは幼児の脳炎、脳症だと思う。型が違ってもワクチンはやるべきだ。うちの孫にはそう勧めて居る。

H 17 10 16. I,SHINOHARA.